トリカエバヤ

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 目の前にいる入国管理局の面々をにらみつつパトリックがゆっくりと口を開く。
「諸君らには国家反逆罪の容疑がかけられている」
 その言葉に彼らは一斉に反発した。
「なぜですか」
「我々は忠実に職務を遂行していただけです」
「それだオーブの国民にDNAの提出を求めたと?」
「出生率の低下を抑えるためです」
 第三世代以上の出生率を上げるための行動だ。それを国家反逆罪などと言われては困る。彼らはそう主張した。
「そのせいでオーブからの輸入が減らされてもかね?」
 意味がわからない、と彼らは首をかしげる。
「彼らはサハクの縁者だ。今も彼らの元にサハクの後継が来ている」
 その意味がわからないはずがないだろう、とパトリックは問いかけた。
「ですが!」
「お前達の暴走のせいで、プラントがオーブから輸入できる生鮮食品の量が減った」
 さらに言葉を重ねようとする彼らの声に被せてパトリックはそう言う。
「なっ……」
「地球の気候異常による作物の減収がその理由だそうだ」
 表向きは、と続ける。
「本音はお前達の態度に腹を立てて、と言ったところだろうな」
 オーブ側は輸出量の減少に文句を言うものはいなかったそうだ。むしろ推奨する者の方が多いらしい。
 それは当然だろう。
 あの国も一枚岩ではない。推奨している者達は大西洋連合と親しい者達らしい。それでもゼロにしないのは、プラント側が農耕を初めて地球側と完全に切れてしまうとまずいと考えているからだ。
「現状で食料が輸入できないとなると多くの市民が迷惑を被るのだが……君たちにはその状況がわからないのかね?」
 お前達の独断のせいでプラント全体に被害が及んでいるのだが、と言外に告げる。
「それは……」
「……オーブに抗議を……」
「天候不順は事実らしい。作物の生育が悪いのもな。オーブに自国の人間よりもプラントを優先しろとは言えまい」
 ただ、予想以上に輸出量の減少が大きかっただけだ。そう告げる。
 そのあたりのさじ加減を握っているのはサハクだ。そして、サハクの双子がわざわざこちらに来ている。そして、さりげないが抗議を口にした。
「お前達の態度がこの事態を招いたのだと理解できないのか?」
 プラントの未来を案じてくれたのはうれしい。しかし、いきすぎてはいけない。まして、オーブの人間を強引に婚姻統制に組み込むことが許されない、とパトリックは言い切る。
「あの二人は本来オーブが外に出す予定がなかった人間だ。今後のお前達の言動次第で例の計画が完成する前に食料を入手できなくなりかねない」
 その責任をとれるのか、と言われて彼らは表情をこわばらせた。
「わかったな。今後、彼らに接触を禁止する。同じことをしないように」
 次は処分をしなければいけなくなる。それだけは避けたいからな、と言う彼に呼び出された者達がうなずいている。
 彼らにしてみれば自分の仕事を全うしようとしただけなのだ。それがこんな大事になるとは思ってもみなかったという所か。
 ただのオーブからの派遣された人間であれば彼らの言い分も通ったかもしれない。
 しかし、彼らはサハクの人間なのだ。それもブルーコスモスの凶行から逃れてきた存在である。このくらいは言わないわけにはいかない。
「……なぜ、そんな人間がプラントに?」
「ブルーコスモスに狙われているそうだ」
 キラの方は危うく人体実験の材料にされるところだったらしい、と続ける。
「だからあの子は体の大きな男が大声で詰め寄るのが怖いと聞いている」
 その言葉が彼らにさらに衝撃を与えたらしい。
「自分達がどれだけ愚かな行動をとったのか。自覚できたようだな」
 だからといって謝りに行かないように。そう釘を刺しておく。
「それは……」
「お前達はあの子供にとって恐怖の対象だと言うことを忘れるな」
 あの子供の精神を不安定にさせた異常、何があっても近づくな。もっとも、サハクの双子が近づけないだろうが。そう続ける。
「戻っていい」
 それ以上は何も言わなくてもいいだろう。そう判断をしてパトリックは告げる。
「……はい」
 言いたいことはあるのだろうが、彼らはそれを飲み込んで立ち去った。
「第三世代か」
 その後ろ姿が見えなくなったところでパトリックはそうつぶやく。それこそがプラント最大の問題だ。どうすれば解消できるのか、そのめどすら立っていない。かろうじて婚姻統制で時間を稼いでいるようなものだ。
「我々だけではダメと言うことか」
 それとも、とパトリックはつぶやく。
「いや、そんなはずはない。なにか方法があるはずだ」
 だが、すぐにその意見を打ち消した。

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