トリカエバヤ
24
カズキが戻ってくると夕食になった。
「本当に必要だったのか?」
カナードをにらみつけながらカズキが問いかける。
「必要だぞ。うちにあったぶんじゃ足りなかったからな」
そう言いながら彼はカズキに買いに行かせたソースを料理にかけた。
「……お前なら他の味付けも出来ただろうに」
「じゃ、喰わなくていいな」
そう言うとカナードはカズキの前にある皿を片付けようとする。
「誰も食べないとは言っていないだろう!」
反射的に彼は自分の体で皿を守ろうとした。
「キラ、良いか? 余計なことを言うとこうなるのだぞ」
ミナがキラにそう告げている。
「口は禍の元と言うに、未だに理解できておらぬようだの」
困った奴じゃ、とギナも苦笑を浮かべた。
「まぁ、まずい飯を食うのはそいつだけだから気にしなくて良いか」
さらに彼は付け加えれば、カズキは表情を引きつらせる。
「まったく……作ってもらっておいてあれこれ言うからこういうことになるんだ」
カナードはそう言うと肉にフォークを突き刺す。
「作っ、てくれた人、に……感、謝しないと……だめ」
キラもこう言ってカズキを見つめる。
「よい子だの、キラは」
その通りだ、とミナもうなずく。こうなると謝らないわけにはいかない。
「……悪かったよ」
それでも素直に口にするのはいやなのか。微妙に視線をそらしつつカズキが言う。
「まじめに謝れぬとは……キラ、あやつを見習ってはダメだぞ」
「そうよの。謝るときは真摯な態度でなければならぬ」
あのような態度では逆に相手を怒らせる、と二人はキラに告げている。
「わ、かりま、した」
そんな二人に吉良は素直に首を縦に振った。その様子がかわいいと思う。
「……お二人とも……俺の株を下げようとされていませんか?」
それを台無しにするかのように、カズキが低い声でそう問いかけている。
「気のせいであろう?」
「考えすぎよの」
何でもないという風情で受け流す二人を見習うべきか、と心の中でカナードは悩んだ。
「それで、今回は何のご用でこちらにおいでになったのですか?」
キラを風呂に追いやった後でカナードが問いかける。
「野菜の輸出についての話し合いよ」
ニヤリ、とミナは笑う。
「ついでに、亡命しておらぬ我が国から派遣された者達の処遇についてよの」
状況によっては派遣しているすべての人間をオーブに引き上げる予定だった、とミナは続ける。
「予定だったと言うことは……」
「今回はせぬ、と言うだけのこと」
点数を稼ぎたい下級役人の暴走だったからな、と言葉を返す。
「半年たって改善されていなければ引き上げさせる予定だ」
そう付け加えればギナが目を丸くする。
「随分と甘い処置ではないか?」
「表向きはな」
ギナの言葉にミナはこう言い返す。
「今回のことのペナルティとして、輸出する生鮮食品を五パーセント減らしたからな」
それ以上はプラントの国民に迷惑がかかるだろう。それは本意ではない、とミナは笑った。
「その話を聞いてあちらも本気で取り組むと言っておったわ」
どこまで徹底できるか楽しみだ、と告げるミナに他の三人もうなずく。
「さて、この話はここまでにしておこう」
それに誰も反対の言葉をあげない。キラが風呂から上がったのがわかったからだ。
「さて……あれもそろそろ外に出すべきであろうな」
「しかし、一人では不安です」
「ラウの所にいるガキが付き合うと言っていたが……どこまで信用していいものか」
そんな会話を交わしていればキラがリビングに顔を出した。