この手につかみたいもの

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 ザフト勢力下のアフリカへと降下したアークエンジェルの前に現れたのは、砂漠の虎と呼ばれる指揮官だった。
 そして、彼らに抵抗しているレジスタンス達。
 彼らの前にストライクのコクピットからキラが姿を現したときだった。
「何でお前がそんなモノに乗っているんだ!」
 言葉と共にレジスタンス達の中から一つの影がキラに向かって駆け寄っていく。そう思った次の瞬間、その人物の拳がキラの頬めがけて繰り出された。もっとも、それを避けるくらいキラには何と言うことはないらしい。反射的に自分の手でその手首を掴んだ。
 いったい何が起こっているのか、フラガ達にもわからない。
「……君は……」
 だが、どうやらその人物のことを知っているようだ。驚いたように目を丸くしている。
 しかし、いったいどこで二人は出会ったというのか。
 その疑問をその場にいた誰もが抱いていた。

 砂漠の夜は昼間とはうってかわって肌寒さすら感じさせる。しかし、キラはそれすら気にならないという様子で空を見つめていた。
 空には真白の月。
 かつての自分たちが暮らしていた場所。
 戻りたくても戻れない望郷の地。
「……僕たちは……こんなに遠くまで来てしまったんだね……」
 月にいた頃は離れるなんて考えられないくらいいつも一緒にいたのに……今の自分たちの間には距離以外の隔たりがある。
「アスラン……」
 つぶやきと共にキラは天空にある月に向かって手を伸ばす。だが、当然のようにそこに手は届かない。
 それが、自分たちの現実を見せつけているようでキラは力無く手を下ろした。
「……自分で選んだことなのにね……」
 それでも、今自分の隣にアスランがいてくれないという事実をキラは寂しく思ってしまう。同時に、彼の声が聞きたいとも……
 ここでアスランと一緒にあの月を見上げることができれば、この寂しさは消えるのだろうか。それとも、もっと寂しさを感じるのか。
 自分の考えに小さく体を震わせる。
「坊主……そんな薄着のままだと風邪ひくぞ」
 その時、キラの耳にフラガの声が届いた。言葉と共に頭の上から暖かな物が降ってくる。それがキラの視界を塞いだ。
 慌ててそれから顔を出す。
 月の明かりで確認をすれば、それが毛布だと言うことがわかる。
「……少佐?」
 いったいどうしてフラガがここにいるのか。キラにはすぐに理解できなかった。
「いつまでも戻ってこなけりゃ、心配するだろうが」
 同じ部屋なんだから、とフラガは付け加えながらキラの隣に腰を下ろす。
「誰かの部屋に転がり込んでいるんだったら放っておいたんだが……こんなところでぼけっと星を見ていたから迎えに来たんだよ」
 そのままキラの体を引き寄せながらフラガは言葉を口にする。
「まぁ、これだけ見事な星空なら、見とれても不思議じゃないのか。宇宙にいたときとまったく違うだろう?」
 あの中にこの前までいたっていうのにな、と告げるフラガにキラは頷いて見せた。
「……星があんな風に瞬くものだとは知りませんでした……」
 コロニーにいた頃やアークエンジェルの中から見た星はいつでも一定の光で輝いていた。そんな星しか見たことしかないキラにしてみれば、星が瞬くという事実は驚きでしかない。
「俺にとって見れば普通の光景なんだけどな」
 地球に降りたことがない者にはそう見えるのか……といいながらフラガは指先でキラの髪をいじり始める。その感触に、キラはくすぐったそうに首をすくめた。
「坊主。いい加減部屋に戻るぞ」
 そのままキラの髪にキスを落とすとフラガが囁く。
「……僕は……」
「体調を整えるのもパイロットの仕事だ。それに、上官命令だぞ」
 キラの言葉を封じると、フラガは立ち上がる。ついでとばかりにキラの体を抱きかかえているのはどうしてなのだろうか。
「少佐! 自分で歩けます!」
「気にするな。俺が抱えてたいだけだから」
 たまには徹底的に甘やかしてやるさ……と付け加えられて、キラは言葉に詰まってしまう。まさか自分が寂しいと思っていることを気づかれていたとは思わなかったのだ。
 このままフラガにすがることができれば楽かもしれない。
 だが、そうするにはアスランの存在が大きすぎた。
 そして、最近感じ始めている不安。
 同時に感じているのは、フラガのぬくもりを失いたくないという思い。
 キラは自分の中で何かが代わり始めたことに気がついていた。


ura
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