この手につかみたいもの

BACK | NEXT | TOP

  08  



 キラがストライクのコクピットから降りてこない。
「大尉」
 戦闘終了後の彼の様子に不安を抱いていたフラガに帰還と同時にマードックが焦りを隠せないという様子で声をかけてきた。
「坊主が……こんな事、ヘリオポリスでの一件以来ですぜ」
 いったい何があったのか、とマードックに言外に問いかけられても、フラガにもわからない。ただ、あの一瞬でキラの動きが変わったことだけはその目で見ていたが。
「……俺にもよくわからないんだけどねぇ……まぁ、何とかしてならないと駄目なんだろうが……」
 もっとも、思い当たる節が全くなかったわけではない。フラガ自身、かつて似たような状況に陥ったことがある。それは、大きな戦闘の後だった。
 キラだって、今までだってそれなりに戦闘経験を積んでは来ている。だが、今回は何かが違っていたのだろう。それが何なのか……と考えた瞬間、フラガはあることに気がついてしまった。
「……イージス?」
 今回、あの赤い機体は戦場になかった。
 それがキラの精神に何か影響をしたのか。
「まさかな」
 だが、フラガはすぐにその考えを否定する。そして、そのまま床を蹴るとストライクのコクピットへと体を泳がせていく。
「坊主、開けるぞ」
 遅れてきたマードックが外部からコクピットを開けるための操作をする。次の瞬間、二人の目に飛び込んできたのはシートの上で膝を抱えてうずくまっているキラの姿だった。その細い肩が小さく震えている。
「……坊主、どうしたんだ?」
 そう言いながらフラガが手を伸ばす。
 そして、その手がキラの肩に触れた瞬間、彼の体が大きく跳ね上がった。
 紫の瞳の中におびえが色濃く映っている。
「坊主、みんな無事だ。心配するな」
 それが原因ではないとはわかっていても、フラガは彼を安心させたくてこんなセリフを口にした。
「だから、出てこい」
 体をコクピットの中に差し込むようにして、フラガはキラの体をシートに縫い止めているベルトを外してやる。そして、そのまま彼の体を抱き寄せた。キラは逆らうことなく彼の腕の中に収まる。
 次の瞬間、キラは彼の腕の中でしゃくり上げ始めた。
「おいおい」
 いったいどうしたんだ……と思いつつもフラガは仕方がないというようにキラの体をしっかりと抱え上げる。
「……大尉……こっちはやっときますから、坊主を」
「あぁ。わかってるって」
 マードックの言葉に頷き返すと、フラガはそのままキラを抱えてパイロットの控え室へと向かう。
 このまま部屋まで連れ帰ってもいいのだが、そうした場合、誰かに見られてしまう可能性もある。それではキラが後々辛いだろうと判断しての選択だ。
 背後でドアが閉められたのを感じて、キラが小さくため息をついたのがわかる。だが、彼はフラガの胸に顔を埋めたまま上げようとはしない。
「……坊主……とりあえずパイロットスーツを脱げ」
 ここについてもまだ自分の胸から離れようとしないキラの頭を撫でてやりながら、フラガはこんなセリフを口にする。もちろん、キラがそれにしたがってくれるわけはない。それどころか、逆にきつくすがりついてくる。
「懐かれるのは嫌いじゃないがな」
 さて、どうやって慰めるか……とフラガは口の中で呟く。そして、あれこれ考えてみるのだが、どうしても答えは一つしか出てこない。
「俺はこういう時の慰め方は一つしか知らないぞ」
 いやなら逃げろ……と囁きながら、フラガは強引にキラの顔を上げさせた。そして、そのまま自分の唇をキラのそれへと重ねていく。
「んっ……」
 くすぐるように舌先で唇を舐めてやれば、うっすらと開かれる。その隙間からフラガはキラの口の中に舌を滑り込ませた。
「……ふっ……」
 そのままキラの口の奧で縮こまっている舌にフラガのそれが絡められる。そのまま優しく刺激を加えていけば、キラの体から次第に力が抜けていった。
 フラガの体に回されていたキラの腕は、今はもうすがるように添えられているだけである。
 それを確認して、フラガはキラの唇を解放してやった。
「……ぁっ……」
 キラの唇から何か物足りないという声がこぼれ落ちる。彼の瞳が今は涙で潤んでいた。それがフラガの奧にあるものを刺激する。
 それを押し殺そうとするかのように、フラガは深いため息をついた。
「坊主。抵抗しないと、この先もするぞ」
 そして、再びキスを強請っているかのように唇を開いたままのキラにこういう。
 だが、キラの方はフラガのぬくもりが離れるのがいやだというように体をすり寄せてくる。それがそう言う意味合いのものではないとはフラガ自身わかっていた。単に、今のキラは何かに怯えているのだろうと言うことも。だが、どう見ても誘われているように思えてしまう。
「ったく……しらねぇぞ、俺は」
 勝手にいいように誤解するからな……と付け加えると、フラガはキラの唇にまたキスを落とす。同時に、彼がまだ身にまとっているパイロットスーツに手をかけた。


ura
BACK | NEXT | TOP


最遊釈厄伝