この手につかみたいもの
08.5
「あっ……」
シャワールームの中は予想以上に声が響く。自分の甘ったるい声を聞きたくないと言うようにキラは慌てて手で口を塞いだ。
「こらこら。せっかくなんだから聞かせろって」
くすりと笑うと、フラガは手を伸ばしてキラの手首を掴む。そして、軽々と引きはがしてしまった。
「……だ、て……聞こえる……」
先ほどまでとはまったく違った意味で涙を浮かべているキラに、フラガは優しい微笑みを向ける。
「ここには俺と坊主以外誰も来ないだろう?」
だから、声を殺すな……とフラガは付け加えた。だが、その言葉にキラは首を横に振る。
「……大尉が……」
聞いているからいやだ……と呟かれた言葉はシャワーの音にかき消された。だが、唇の動きだけでフラガには十分わかってしまう。
「お前な……」
おそらく、キラ自身は自分のセリフがどんな意味としてフラガに認識されているかわかっていない。いや、それ以前にこの行為の意味すらわかっていないのではないだろうか。フラガが事を起こす前に口にした『コミュニケーション』という言葉を素直に信じているらしいのだ、キラは。
もっとも、その言葉に嘘はない。
男所帯のパイロット達ではそんなこともあり得るというだけだ。
しかし、フラガの気持ちがそうかというと別だ。もっとも、それをキラに気づかせたいわけではない。単に、キラの中にある何かを和らげてやりたいと思っただけだ。
「そう言う事言うと、誤解されるぞ」
ため息と共にそう言いながら、フラガはキラの首筋にキスを落とす。
「ご、かい?」
「……マジでわかってねぇな、お前は……」
キラの反応に、フラガは苦笑を浮かべる。
「大尉?」
「お前、少しは自覚しておけ。自分がそこいらの女の子より可愛い顔をしているんだって」
おにーさんじゃなきゃ、一気に理性が飛んでいくぞ……と付け加えながら、フラガはそのままキラの体の線に沿って手を滑り落とす。
「あぁっ!」
それだけでキラは甘い声を漏らした。フラガがまだ手首を掴んでいるせいで、今度は声を殺すことができないらしい。
「やっ!」
そのままフラガの手がキラの中心に触れる。
「本当、可愛いよな、坊主は」
指を絡めただけでさらに体積を増すそこに、フラガは満足そうな表情を見せた。そして、掴んでいた手を自分の中心へと導いていく。
恋人ではない。だから、体をつなげるところまではするわけにはいかないだろう。
かといって、修行僧のように我慢する気はさらさら無い。
「……大尉……」
その熱さにキラは手を引きかける。だが、フラガの手が彼のそれを上から包み込んでいるせいで果たすことができなかった。
「だから、俺の頼むな?」
二人で気持ちよくなろう……とフラガはキラの耳に吹き込む。
それに促されるかのように、キラの指がおずおずと動き始めた。