小さな約束

BACK | NEXT | TOP

  151  



 そこに命の息吹は感じられない。
 ただ、かろうじて生き残っている環境維持装置が起こす風で、砂に風紋が刻まれるのが唯一の変化と言えば言えるだろう。
「……ここは、墓場だな」
 ミゲルが小さな声でそう呟いた。
「俺たちを含めた子供やデーターを持ち出す人間を逃がすために大勢の人々が残ったからな」
 カナードは小声でそう言い返す。
「俺はミナ様とギナ様と一緒に、カガリはムウさんとだ。キラはラウさんと一緒に逃げたはずだが、どこかでデュランダルと合流したんだろう」
 もっとも、そのおかげでなんの苦労もなくプラントのIDが取得できたらしいが。彼はそう続けた。
「研究所関係者だけではなく民間人もかなり巻き込まれたのだろう?」
 カガリがそう問いかけてくる。
「そうなの?」
 キラが反射的にそう問いかけるのが聞こえた。
「あぁ。お前はプラントにいたから知らないんだな」
 オーブでは歴史の一端として授業で教えている。だから、知らない人間は少ないのだ。カガリはそう続ける。
「……わたくし達はまだまだ愚かだと言うことですわね」
 ラクスがため息とともにこう呟く。
「プラントから出ることのない人の方が圧倒的に多いからね」
 キラがそんなラクスをなだめるように言葉を口にした。
「だから、どうしてもプラント以外に目が行かない人が多いんだと思う」
 あるいは、ここの惨状を忘れたいのか。なかったことにしたいのかもしれない。キラは淡々とした声音でそう続ける。
「お前な……無理しなくていいんだぞ」
 即座にミゲルが声をかけた。
「例えお前が泣いても、誰も気にしないから」
 その言葉にレイが真っ先に動く。
「キラさん」
 そのままキラの体を引き寄せる彼に周囲から微妙な視線が向けられた。と言うより、どうして自分が先に動かなかったのだろうかと考えているのだろう。
「大丈夫ですよ」
 そんな周囲の視線をシャットアウトしてレイがこう告げる。
「……ごめん」
 こう呟くと、キラは彼の肩に顔を伏せた。
「残念。隣にいたら、俺の役目だったのにな、それ」
 ミゲルがわざとらしいまでに悔しげな声音でそうぼやく。
「わたくしでもよかったのに」
 ラクスが同意をするように言葉を口にする。
「なら、姉である私でいいだろうが」
 即座にカガリもそうそう言った。
「ともかく、だ。キラにはあまりいい環境ではなさそうだ。急ぐぞ」
 ここで自分まであれこれと口にすれば別の意味で収拾がつかなくなる。そう判断をしてカナードはそう言った。
「そうだよな。確かに、ここに長居しない方がいい」
 ミゲルもそう言って頷く。
「まだ遠いのか?」
 そして、こう問いかけてきた。
「そうでもないな。ただ、ここから先は道が破壊されている。迂回をする必要があるだろう」
 言葉とともにカナードはさりげなく周囲を見回す。自分の記憶の中にある光景は、緑にあふれていた。しかし、今は一面の砂漠だと言っていい。
 これが人が管理しなくなったプラントの光景なのだろう。
 そう言った意味では間違いなくここは墓場だ。
 だが、ここには今を未来へつなげるための技術も埋まっている。
「そう言うわけだ。しっかりと何かに掴まっていろ」
 過去にとらわれる前にそれを手にして戻るべきだろう。そう判断すると、カナードはアクセルを踏み込んだ。

BACK | NEXT | TOP


最遊釈厄伝