小さな約束
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条約締結のための話し合いの場に出なければいけないミナやギルバート達を残して、キラ達はアメノミハシラを離れていた。
「最初からおれをこちらの護衛に回すつもりだったんだな、隊長は」
ミゲルはそう言うと同時に、わざとらしいため息をついてみせる。
「まぁ、俺一人いなくなっても問題はないしな」
問題児どもの面倒を見る人間がいなくなるだけだ。そう言って彼は笑う。
「ラウさん、大丈夫かな?」
アスラン達の手綱を取るのは大変ではないか。キラはそう呟く。
「大丈夫だろ。隊長だけじゃなくザラ閣下もいらっしゃるし」
でも、とミゲルは視線を移動する。
「ラクス様はあちらに残られた方がよかったかもしれませんね」
そしてこういった。
「いやです」
だが、彼女は即座に否定してくれる。
「せっかくキラに会えたのですもの。まだまだ、一緒にいたいですわ」
絶対に口にするだろうなと思っていたセリフを、ラクスは微笑みとともに唇に載せた。
「ラクス……僕は逃げないけど?」
キラがあきれたように告げる。
「気分の問題ですわ。わかりますでしょう、カガリ」
「そうだな」
だが、女性陣は違うらしい。二人で頷きあっている。
「そう言うものなの?」
キラがレイに問いかけた。
「……あの二人がまだまだ子供だと言うことではありませんか?」
一応、彼の方が年下のはずだ。しかし、その口調は年長者のものと言ってもいい。
「仕方がないな。彼女達は今まで安全な場所にいた。そういうことだ」
カナードが苦笑とともにそう言ってくる。
「カガリの場合は俺たちがそれを望んだし、ラクス・クラインに関しては、同じ場所にいたキラも安全だったと言うことだ」
さらに彼はこう付け加えた。
実に見事だ、とミゲルは感心する。これではラクス達が文句を言えるはずがない。
こう言う攻撃方法もあるのか、とミゲルは心の中だけで呟いた。
「それより、よかったの? ジンを持ってきて」
キラが話題を変えようとこう問いかけてくる。
「上の許可は出ているからな」
ラクスとキラ、それにカガリがいるから、護衛として最上級の装備をゆるされた。そう告げる。
「と言っても、普段俺が使っているカスタムしてある機体じゃないが、カナードさんがいるから十分だろう」
白兵戦はあまり得手ではないし、とこっそりとはき出す。
「移動の護衛は彼に任せるか」
カナードがそう言ってくる。
「MSでついてきてもらえばいいだろう」
「そうですね」
苦笑とともにミゲルはそう言い返した。
「……何で俺が護衛に選ばれなかったんですか!」
アスランがラウに詰め寄っている。
「簡単なことだよ。君では全員を護衛できない。そう判断しただけだ。それではオーブ側から出された条件を満たせない」
即座にラウがそう言い返した。
「その点、ミゲルはギナ様から合格点をもらえているからね」
言外に、ギナから許可をもらえなければ無理だ、とラウは言う。それは永遠に無理だと言うことと同義ではないかとギルバートは内心ほくそ笑む。
だが、アスランはそう考えなかったらしい。
「……わかりました。これからギナ様に許可を頂きに行きます」
言葉とともにアスランはきびすを返す。そのまま彼は出て行った。
「幸せだね。自分の実力を知らないと言うことは」
ギルバートは思わずこう口にしてしまう。
「あちらではギナ様が手ぐすね引いて待っているから大丈夫だろう」
即座にラウがこう言い返してくる。
「予想済みか」
本気であの自信を叩き折られるといい。キラの平穏のためにも、とギルバートは小さな笑いを漏らした。