小さな約束
152
自分の息子はここまでバカだっただろうか。パトリックはそう考えると同時に目頭を指先でもむ。
「アスラン……」
そのまま己の子供の名を呼んだ。
「許可していただけるのですか?」
だから、どうしてそう言う結論になるのか。
「しばらく謹慎していろ。今回のことは失敗するわけにはいかないからな」
「……父上?」
何を言っているのか。彼の表情がそう告げている。
「当然だろう。今回の人選はこちらから押しつけたものではない。あちらからの依頼だ。その中に、お前の名前はない」
つまり、オーブ側はアスランを必要としていないのだろう。
「むしろ、近づけてくれるなと言われている」
この言葉にアスランは目を丸くした。
「何故、ですか! ラクスとミゲルはいいのに」
しかし、すぐにくってかかってくる。
「あの二人は必要な時は見守ることを知っている。だが、お前はキラ君の仕事すら取り上げて自分でしようとするだろう」
それでは意味がないのだ。
「今回のことにはプラントの未来がかかっている。誰であろうと邪魔させるわけにはいかないのだ」
例え我が子であろうと、とパトリックは続ける。
いや、我が子だからこそか。
「……意味がわかりません」
アスランはそう言いながらにらみつけてきた。
本当に、こういう所は誰に似たのだろうか。
シーゲルあたりに聞けば答えは出るのかもしれない。だが、聞かない方がいいような気がする。
「キラ君以外の人間が触れれば全てのデーターが消える装置もあるそうだ。それにお前が先に触れたらどうなる?」
アスランのことだ。自分が先に確認してからでなければキラに触れさせないだろう。
だが、それではだめなのだ。
「お前はあの子の自主性すら無視するだろうが」
多少は自制できるようになったらしいが、それだけは未だに治らない。
「キラを守るためです!」
「それは守っているのではない。束縛しているというのだ」
ときには危険だと思っても本人の意思を優先させなければいけないことがある。そうでなければ、相手の心を壊してしまうだろう。
「それでも、キラが傷つくよりはマシです!」
「そう考えるのはお前だけだ」
本当に、どうしてこの息子は己の考えが間違っていると考えられないのか。
同時に、ここで自分の考えを修正できればよかったのにと思わずにいられない。
「ともかく、だ。最高評議会国防委員長として命じる。お前は許可が出るまで自室で謹慎しておれ」
「いやです!」
即座にこう言い返すアスランに、もうこれ以上の慈悲は無意味だと判断するしかない。
「そうか。お前には失望した」
ため息とともにそう告げる。
「営倉に連れて行け!」
そのままドアに向かってそう命じた。同時に兵士達が入ってくる。
「父上!」
彼らに両手を捕まれたままでアスランが叫ぶ。
「今までのが精一杯の譲歩だったのだがな。拒んだのはお前だ」
そんな彼にパトリックはこう告げる。
「あきらめてサハクのお二人に説教されてこい」
さらに言葉を付け加えた瞬間、アスランが凍り付く。
「……死なぬようにな」
これは父としての本心だ。
そのセリフを合図にアスランが引きずられていく。その後ろ姿をパトリックはただ、黙って見送っていた。