愛しき花
46
久々にカナードが戻ってきた。しかし、彼の表情は堅い。
「何かありましたか?」
カガリはそう問いかける。
「ギナ様からの伝言だ」
ため息とともに彼は口を開く。
「三日ほど部屋から出るな、だそうだ」
カガリだけではなくラクスも、と彼は続ける。
「……いろいろと聞きたいことはあるけど、それ以前に、どうやって連絡をしてきたんですか、あの人は」
カガリはそう呟く。
「それは、あの人だからな」
微妙に言葉を濁される。と言うことはムウ経由で届いた、と言うことか。だから、最近、カナードが彼の機体にかかりきりになっていたのだろう。
「助っ人も連れてくると言っていたが」
いやな予感がするのは錯覚か? と彼は呟く。
「奇遇だ。私も、そう思う」
「わたくしもですわ」
カガリだけではなくラクスもそう言って頷く。
「近くにクルーゼ隊長がおられるなら、なおさらです」
ラウがいるなら、と言う一言にカガリは引っかかる。
「何でだ?」
ラウと知り合いだったのだろうか。そう思いながらカガリはラクスに問いかけた。
「わたくしの婚約者がいるからですわ」
そうすれば、彼女はため息混じりにこう言い返してくる。
「なるほど。相手はお前の本性を知らないんだな」
納得、とカガリは頷く。
「そう言うわけではありませんわ」
ただ、とラクスはため息をついた。
「問題なのは周囲の方々です。きっと、カガリも同じ目に遭いますわ」
この言葉にカガリは首をかしげる。
「別に、今更だろう」
セイランのあれこれに比べたらかわいいものではないか。
「邪魔しようというわけじゃないなら妥協できるだろうし」
苦笑とともにそう言い返す。
「こればかりは実際に体験してみないとわかりませんわね」
ラクスは意味ありげな笑みとともにそう言った。
「そのときにどのような感想を抱かれるか、楽しみですわ」
彼女のその表情にいやなものを覚える。だからと言って、自分の言葉を撤回する気にもなれない。
「実力行使に出られなければ、どうでもいい」
何度監禁されそうになったのか、とカガリはぼやく。
「ほぉ」
その瞬間、カナードが低い声で言葉を綴り出す。
「俺はそんなことは聞いていないな」
そういえば、彼には内緒にしていたのだった。今更ながらに、その事実を思い出す。
「ミナ様は知っているぞ」
こうなれば、責任は彼女に転嫁しておくしかない。そう判断をしてカガリは口を開く。
「それに……あの後すぐ、おじさま達のことがあったからな」
これで時期についてはわかるだろう。
「あの頃か」
カナードがいやそうに顔をしかめる。
「だから、私から言うタイミングがなかったんだよ」
あのときはキラの方が優先順位が高かったから。カガリがそう言った。
「アスランですらプラントからくると言って大騒ぎだったしな」
それに比べれば、自分の監禁未遂はどうと言うことはない。自力で逃げ出すことができたし、あの後からキサカがそばに付いてくれるようになった。
「……どちらにしろ、近いうちにセイランはつぶすしかないな」
とりあえず、カナードの意識を自分からセイランに向けられたからよしとしよう。カガリはそんなことを考えていた。
もちろん、そう世の中は甘くないというのも事実ではあったが。