愛しき花

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 艦内のネットワークに接続できたからと言って、今までと何も変わらない。ここでハッキングをする危険は知っているつもりだ。
 もちろん、他のシステムに接続できるのであれば話は別だろう。だが、幸か不幸か、そんな機会もない。
 と言うわけで、暇つぶしのプログラムがどんどん増えていく。
「……シン」
 さすがにパソコンのハードディスクの容量だけでは足りなくなってきたかもしれない。そう考えてキラは彼に声をかける。
「何だ?」
「データーディスクの余裕って、あるのかな?」
 あったら欲しいんだけど、と申し訳なさそうに告げた。
「たぶんあると思うけど……それよりも、俺のフォルダ使った方が早いんじゃね?」
 自分は使わないから、と彼は言う。
「うん……でも、万が一のことがあると怖いし」
 だから、サーバーには置いておきたくない。キラはそう言い返す。
「……そう、何だ」
 その言葉にシンは表情をこわばらせる。
「前に一回、カレッジのサーバー、落としちゃったからね」
 そんな危ないのはないと思うが、とキラは付け加えた。
「一応、今作っているのは心配ないのばかりだけど……万が一の可能性もあるし」
 だから、とキラは続ける。
 もちろん、万が一と言うことはあり得ないとわかっている。しかし、他の誰かにこれを見られた場合、何に使われるかわからないのだ。それが怖い。
「わかった。ちょっと聞いてくる。だから、部屋から出るなよ?」
 シンは立ち上がるとこう言ってくる。
「ついでに、何か飲み物をもらってきてくれる」
「了解」
 こちらは気軽に頷くと、彼はそのまま部屋を出て行く。
「本当は自分でできればいいんだけどね」
 何をするにしても、今は、シンにつきあってもらわなければいけない。彼にも他にやるべきことがあるのではないか。そう思うのに、だ。
「シンがいてくれてよかったかな?」
 それと、レイが……と続ける。
「そういえば、レイ、まだ戻ってこないね」
 ラウに呼び出されていったが、何があったのだろうか。
「厄介事でなきゃいいんだけど」
 そう付けくけ加えた瞬間だ。モニターにメール着信のアイコンが表示される。
「厄介事だね、これは」
 今の自分にメールを送ってくる人間は一人しかいない。だから、とキラはため息をつく。
「シンが戻ってくるまではおとなしくしていないとね」
 見るのも、そのときにしよう。キラはそう判断すると、移動するファイルを選別し始めた。

「キラの様子はどうかな?」
 ラウはレイにそう問いかける。
「ご自分で聞けばいいのでは?」
「あのこのことだからごまかされるよ」
 自分相手では、とラウは苦笑を浮かべた。
「言われてみれば、そうかもしれません」
 もう少しわがままになってくれてもいいのに、とレイはため息をつく。
「そう言うところはお二人の教育だったのだろうね」
 キラの本質を知っていたからこそなのだろうが、しかしやり過ぎたのではないか。カナードやカガリを知っているだけにそう思えてならない。
 だが、キラがそれを普通だと考えているならばあえて指摘をするようなことはやめておこう。彼女の本質が開花しても、彼女が幸せになれるとは思えないのだ。
「でも、シンには結構わがままを言っているようですよ」
 ちょっとだけ悔しそうに彼はそう言う。
「なるほど。やはりカガリ嬢の意見を聞いて彼を連れて来て正解だったね」
 それと、とラウは続ける。
「彼をうらやむのはやめなさい。君は私以上にキラに近い。ある意味、姉弟のようなものだからね」
「そうですね」
 シンもそれはわかっていたのだろう。小さく頷いてみせる。
「では、そろそろ戻りなさい。キラが待っているだろうしね」
 そう命じれば、レイは大きく首を縦に振って見せた。

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最遊釈厄伝