愛しき花
44
「……キラへのデーターの多くは、プラントでの連絡先だったと?」
ラウはアスランに確認するように問いかけた。
「はい。キラがコピーしてくれましたので、確認してください」
言葉とともに彼は一枚のデーターディスクを差し出して来る。
「君たちを疑うつもりはないのだがね」
苦笑とともにラウはそれを受け取る。
「何よりも、ギナ様があの子を厄介事に巻き込むはずがないからね」
いや、そう思いたいだけだろうか。自分もキラのこととなると判断が甘くなる。苦笑とともにラウは心の中でそう呟いた。
しかし、内容を確認するのは隊長としての義務だ。
キラもそれがわかっているからこそ、素直にアスランに預けたのだろう。
「さて……」
そう呟くと、ラウは受け取ったディスクをパソコンへと差し入れる。
そして、中を確認しようとしたときだ。
フォルダの中に新しいファイルが現れる。
「……また、手の込んだことを」
おそらく、自分宛のファイルとキラ宛のファイルが同じパソコンで読み込まれたときにだけ現れるようになっていたのだろう。
「しかし、こうなるとキラにも来てもらわないといけないね」
全く、と彼はため息をつく。
「隊長?」
どうかしたのか、とアスランが問いかけてくる。
「ギナ様のいたずらだよ。悪いが、キラを呼んできてくれるかな?」
話はそれからだ。ラウはそう続けた。
「わかりました」
内心を感じさせない声音でアスランはそう言い返してくる。
「さて……ギナ様の真意はどこにあるのか」
ラクスのこともある、とラウはため息をつく。
「楽はさせてもらえないようだね」
相変わらず、と口の中だけで付け加えた。
二人分の食事を手に部屋に戻る。
しかし、だ。そこにいるはずのラクスの姿がない。
「……またか、あいつは」
勝手に出歩くなと言っているのに、と呟きながらカガリはテーブルに食事を置いた。
「今日はどこに行っているんだか」
人に食事を取りに行かせておいて、と続ける。
「またあの女に文句を言われるぞ」
そう付け加えたときだ。
「見つからなければ大丈夫ですわ」
うふふ、と笑いながら当の本人が戻ってくる。しかし、問題なのはドアが開く気配もなかったことだ。と言うことは、最初から部屋の中にいたのだろうか。
「ラクス、お前……」
「お気になさらず。やるべきことをやっているだけですわ」
それが微妙に怖いと思うのはどうしてだろうか。
「ともかく、食事にしよう。冷めるとうまくなくなるからな」
そう言いながらカガリは椅子へと腰を下ろす。
「そうですわね」
ラクスもカガリの向かいに腰を下ろすとプレートに手を伸ばした。
「そういえば、カナード様は何をされておられるのでしょう。ここ数日、お顔を見ておりませんが」
スプーンに手を伸ばしながら彼女はこう問いかけてくる。
「あぁ。ムウさんの機体のシステムを修正しているらしい」
とりあえず、そういうことになっている。カガリはそう言い返す。
「近いうちに何かあるんだろうな、たぶん」
それまで体力を温存しておかないと、と彼女は続ける。
「確かに。足手まといにはならないようにしないと」
ラクスもそう言って頷く。二人はそのまま黙って食事を始めた。