トリカエバヤ
49
久々にレイのピアノが聞きたい。
しかし、どうすればいいのだろうか。
「……兄さん……」
わからなければ知っていそうな相手に聞けばいい。そう考えてキラはカナードに声をかける。
「どうした?」
「久々にレイのピアノが聞きたいんだけど……どうすればいいの?」
呼べばいいのか、それともこちらから行けばいいのか。行くとしても事前に約束が必要だろうし、とたどたどしい口調で告げる。
「わかった。俺が約束を取り付けてやるよ」
カナードはあっさりとこう言う。
「ただ、ピアノなら向こうに行った方がいいんだろうが……大丈夫か?」
行けるのか、とカナードが問いかけてくる。
「たぶん……大丈夫」
ギルバートの家ならば騒がしくないから、とキラは言う。
「あぁ、そうだな」
何よりも、あそこにはラウもいる。そう考えればキラにとって安全な場所だと言えるだろうとカナードもうなずく。
「なら声をかけておくが、いつになるかまでは確約できないぞ」
「それでいいです」
「わかった。出来るだけ早く行けるように相談しておく」
カナードの言葉にキラはうれしそうに微笑む。
「ありがとう」
その表情のままそう告げれば、カナードもかすかな笑みを浮かべる。
「気にするな。兄として当然のことだからな」
彼の言葉にキラは訳はわからないが申し訳ないような気持ちになった。どこかで聞いたことがあるようなセリフに、泣きたいような思いがわき上がってくる。しかし、必死にそれをこらえた。
「ラウさんにも会えればいいのだけど」
嗚咽の代わりにこう告げる。
「それはどうだろうな。軍のシステムはわからないが、彼のスケジュールに関しては守秘義務があるだろう」
軍でもそれなりの地位を確保しているらしいから、とカナードが言い返してく来た。
「でも、まぁ希望は伝えておくよ」
彼が仕方がないというようにこう付け加える。
「面倒かけて、ごめんなさい」
本当は自分でやらなければいけないことなのに、とキラは言う。
「気にするな。お前が出来ないことは俺がする。それだけだ」
言葉とともにカナードがキラに向かって手を伸ばしてくる。そしてそのまま優しく髪をなでてくれた。
「甘えてくれるだけでうれしいしな。このくらい、おやすいご用だ」
そう言ってもらえることはうれしい。でも、本当に甘えていいのだろうか。少しは自分で出来るようにならなければ行けないのではないかとキラは心の中でつぶやいていた。
「キラさんが俺のピアノを聞きたいとおっしゃっていたと?」
『あぁ。時間はあるか?』
「はい。なくても作ります」
笑顔でそう言えばカナードが呆れたようにため息をつく。
「カナードさん?」
『無理だけはするなよ』
キラが悲しむからな、とカナードが続ける。
「わかっています」
さすがにキラに泣かれると困るし、何よりもラウに怒られると続けた。
『そのラウさんにも会いたいと言っていたぞ』
「わかりました。明日には帰ってくる予定ですので、話をしておきます」
『それはタイミングがいいと言うべきか……恐ろしい確率だな』
キラがラウのスケジュールを知っていたはずがない。それなのにこのタイミングでキラがそういうとは……とカナードが絶句している。もっとも、それはレイにしても同じ気持ちだ。
「ギルに相談をして返事を差し上げます」
『あぁ、頼む』
レイの言葉にカナードがそう言ってくる。それにレイはうなずいて見せた。