トリカエバヤ

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「アスラン!」
 珍しくも父が部屋に入る前から自分の名を呼ぶ。
「何でしょうか、父上」
 なにかをしでかした記憶はない、と思いながらアスランは言葉を返す。
「お前、休館中の施設に職員の誓詞も聞かず強引に入り込んだそうだな」
 その言葉にいったいどこから漏れたのだろうか、と一瞬考え込む。
「サハクの方から聞かされたとき、恥ずかしさで顔から火が出るかと思ったぞ」
 父の言葉にアスランは顔をしかめた。
「なぜ、俺だけ怒られるのでしょうか」
 そしてこう言い返す。
「ルール違反はあちらも同じだと思いますが?」
 そういえば父は呆れたようにため息をつく。
「あそこはオーブの領域だからな。それに、職員の指示をきちんと聞くだろうし」
 職員も居場所を把握しているだろう。何かあったとしてもすぐに対処がとれる体勢になっている。しかし、お前達はそうではなかっただろう、と逆に聞き返された。
「そう言う状況になればきちんと従いましたよ」
 アスランはそう言い返す。
「それに……あそこは無休だと思っていましたから」
 アーモンドの花が見頃だったし、と続ける。
「見ごろを逃すわけにはいきません」
「来年まで待てば良かろう」
「今年の花は今年見たがったのですよ……ラクスが」
「ラクス嬢が?」
「えぇ。ですから無理をしました」
 顔を見たのも久々でしたから、とアスランは付け加える。彼女が喜びそうな場所を他に知らなかったので、とさらに言葉を重ねた。
「……それでも、だ。お前は私の息子である以上、みんなの規範にならなければいけない」
 今回のことは失策だ、と父が言い切る。
「……は、い……」
 父の言いたいことは理解できた。だが、納得は出来ない。
「ですが、それならばどうしてあの二人は良かったのですか?」
「……あの二人というとギナどのと連れの子どもか」
「はい」
「ギナ殿は監査としてあの施設を訪れていた。あの子どもはキナ殿の言うことはきちんと聞くからかまわぬという判断よ」
 あの子自身、自分でなにかをしようというそぶりを見せない。そう言われて納得できてしまう。何というか自我が極端に薄いというのか。自分でなにかをしようという意思を感じられなかったのだ。
「……訳ありですか?」
「ブルーコスモスにとらわれていた子どもの一人よ。あの子が一番マシな状況で見つかったが……両親はあの子を守ろうとしてブルーコスモスに殺されたという。そしてマインドコントロールによって自我を制限されておったらしい」
 安全だと思われたプラントでも、その血筋故に強引にDNAを採取しようとした者達によってトラウマを刺激されたのだとか。
「……ですが、DNAを採取することは婚姻統制のために必要ではありませんか?」
「プラントの人間であればな。あの子どもの籍はオーブにある。そして、サハクはあの子が好いた相手と結ばれることを希望しておる」
 残念ながら現在のオーブにはそれを覆すだけの力がない。誰かを近づけようにもあの子自身が表に出てこないのだ。知り合いになることも難しい。父はそう続ける。
「婚姻統制の範囲外だと?」
「そういうことよ」
 残念だ、と父は言う。
「なぜ、オーブなら婚姻統制の範囲外なのですか?」
「あの国にはナチュラルもおる。結婚相手がナチュラルであれば次世代を望めるからな」
 そう言う相手との仲を邪魔しないためだ。父はそう言う。
「……ナチュラルですか」
 自分達には考えられないが、とアスランはため息をつく。
「仕方があるまい。オーブはどの種族も平等だと唱っておる。それが国是である以上、我々が口を出すことではない」
 何よりも次世代を残すと言う意味では正しいのだ。父はそう言った。
「そうでしょうか」
 次世代を残すと言うことは優秀な遺伝子を残すことではないか。少なくと自分はそう思っていた、とアスランは続ける。
 しかし、オーブでは違うのか。ナチュラルと婚姻関係を結べば子どもはコーディネイターではなくなるのに、とつぶやく。
「お前も誰かを好きになればわかる」
 ため息をひとつつくと父がこう言う。
「ともかく、だ。お前はしばらく学校以外の外出を禁じる」
 いいな、と言われてしまった以上、うなずく以外アスランのとれる選択肢はない。
「母上の見舞いもですか?」
「そうだ」
 父の言葉にアスランは信じられないと言う様に目を見開く。
「それがお前への罰だ」
 父のその言葉に、アスランは初めて自分がしてはいけないことをしたのだと認識した。

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最遊釈厄伝