トリカエバヤ

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 軽く食事をしてから自宅へと戻る。もっともキラの食欲は完全に失せていたせいでギナを心配させてしまったのだが。
「……プラントの子どもはあれほどまでに無礼なのか?」
 帰るとすぐに出迎えに出たカナードに向かってギナが問いかける。
「無礼とは?」
「人の話も聞かず職員の制止も無視して果実園に突入してきたぞ」
 あれがここの子どもの標準だとは思えぬが、とギナが続けた。
「なるほど。ユウナのようなものか」
 いつの間にか来ていたミナがため息とともに言い返す。
「何という名前だ?」
「家名までは聞いておらぬが……確か、アスランと呼ばれておったの」
 その言葉にミナだけではなくカナードからも深いため気が出る。
「アスラン・ザラですね、おそらく。深い藍色の髪と緑色の瞳ではありませんでしたか?」
 そのままカナードが確認するようにギナに問いかけた。
「そうだったやもしれぬ。あぁ、ラクスという少女といっしょだったぞ」
 あちらはただの世間知らずの娘だな、とギナは身も蓋もないことを口にする。
「確定です。二人は婚約者ですから」
 カナードの言葉にミナはまた一つため息をついた。
「ご両親が忙しすぎて最低限のしつけしかされておらぬのか……あるいは父親の地位が上がったことで舞い上がったか。どちらかであろうな」
 あるいは、と彼女は続ける。
「ご両親の関心を向けてほしかった、だ。あの頃は両親の関心をもらうのは当然らしいからな」
 残念なことに、自分達は普通ではなかったから……とミナは苦笑を浮かべながら口にした。
「我は姉上がいてくれればそれで良かったのだがな」
「しかし、今は違うであろう?」
「キラは可愛い。カガリも手がかかるが可愛い、かの。ムウは頼りになるしラウも信用してかまうまい。あれらに関わる人間も手を貸してやっても良いと思えるかな」
 そのほかの人間はどうでもいいが、と言うギナにはまだ根深い人間不信があるようだ。しかし、表面だけでもとり作れるようになっただけもましだろう。
「我も、昔はそう思っておった。だが、世界はそれだけではダメだからの。せめてオーブの人間ぐらいは気にかけてやろうと思っておるだけよ。セイラン以外という条件はつくがの」
 キラとカガリは無条件で可愛いと思うが、カガリは時々無性にいじめたくなる。ミナはそう答える。
「姉上もか」
 ギナがほっとしたように言う。これはオーブに戻ってからカガリがつつき回されることになるだろう、とミナは苦笑を浮かべる。
「ほどほどにの」
 構い過ぎると嫌われるぞ、とその表情のまま告げた。
「キラは平気なのだが……」
「あの子はつつかないだろう?」
「当たり前であろう。あの子の顔に傷をつけるなど考えられぬ」
「カガリは良いのか?」
「自分で望んで傷をつけるような奴ぞ。ひとつふたつ増えたところで気にもするまい」
 その言葉にミナは普段のカガリの生活を思い出す。確かに擦り傷切り傷を常に作っていた。
「やんちゃすぎるのも問題よの」
 乳母の小言を気にすることなく御山の大将を気取っているカガリを思い出して小さなため息をつく。
「であろう?」
 本当に、少しはキラと入れ替われば良いものを……とつぶやくギナの意見にミナも賛成だ。
「とは言えども無理であろうな」
 あれはカガリの周囲も悪い。ミナはそう言いきる。
「確かにの」
 ギナも珍しくため息をつく。
「そちらについてはウズミに任せるしかあるまい」
 父を名乗っているのだから、とミナは苦笑をにじませた。
「我らはキラを優先すれば良い」
 しかし、とため息をつく。
「その子ども──アスランだったか?──は少し教育が必要だろう」
「だが、我らが口を出すことではあるまい」
「それこそ父親に任せれば良かろう」
 責任をとギナが言う。
「そうだな」
 問題はどうやって伝えるかだ。まぁ、なんとかするしかないか、とミナは心の中でつぶやいた。

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最遊釈厄伝