トリカエバヤ
43
「キラの記憶が戻りかけていると言うたのか?」
ミナの言葉にギナが問いかける。
「あぁ……やはりそうですか」
カズキが先に口を開く。
「カナードから報告を受けています」
最近よくうなされているらしい、と彼は続ける。
「もっとも、それが悪夢なのかそれとも記憶の蓋が開きかけているのか、我々では判断がつきませんでしたので……報告だけはさせていただいていたのですが」
その言葉にミナは首をかしげた。
「我が元には届いておらぬな」
そう告げればギナがさりげなく視線をそらす。
「犯人がわかった」
お前か、とギナをにらむ。
「キラが心配だっただけよ」
「……あっさりとプラント行きを引き受けた訳よな」
「何を言われる。我としてもプラントとの関係は無視できぬからな」
特にプラントの開発力には目を瞠るしかないから、とギナが笑う。彼の今までの言動を鑑みればそれを素直に信じられるわけがない。
「建前だけは立派だの」
ため息をつきながらミナはそう言う。
「本音はどうなのだ?」
そのままこう問いかける。
「……キラの様子が気になっただけだが?」
ついでに確認しに来れば安心できると思っただけだ、と本人は真顔で告げた。
「キラの状況をどうやって知ったのだ?」
「報告書を読んだからだが?」
それがなにか、と問いかけてくる。
「その報告書はどうしたのだ?」
何が、ではないだろうが。そう思いながらミナは問いかけた。
「他の人間に読まれぬよう、ライブラリの奥に隠したが?」
「なぜ、それを私に言わぬ」
「……忘れておったのよ」
ミナに言うつもりであったが、別件でごたごたしているうちにきれいに忘れてしまったのだ。ギナはそう続ける。
「あのバカのせいでの」
まったくあいつは、とギナがつぶやく。それはミナも同じ気持ちだ。ユウナが引き起こしたあれこれの尻ぬぐいでしばらくオーブの首脳陣に大混乱が起きていた。そのせいで忘れていた、とギナは言いたいのだろう。
「あぁ、あの件か……仕方がないのか?」
それでも報告があってしかるべきだったのではないか。そう思わなくもない。
「まったく……次からは気をつけよ」
今さら言っても仕方がないか、とすぐに割り切ることにする。それでも釘を刺すことは忘れない。
「わかった」
今ひとつ信用は出来ないが、とミナは心の中だけで付け加える。
「ともかく、姉上。キラの記憶が戻るとまずいのか?」
わざとらしいな。そうは思うが仕方がないだろうと思う。
「爆発よ」
記憶のな、とミナは続ける。
「徐々に戻るならば心配はないだろうが、一気に戻った場合、あれの精神が壊れかねぬ」
それならばまだいい、とミナは思う。最悪、キラが大量虐殺の引き金を引きかねない……と心の中だけで付け加えた。
「それは困るの」
ギナが即座にこう言ってくる。
「どうすれば良いのだ?」
「……キラの夢の内容がわかれば早いのだが……」
それを知るのは難しいだろうとミナは考えていた。
「無理ならば、少しずつ──自分のこととは知らせずに話すしかあるまい」
まずは、とミナはつぶやく。
「……それが一番難しいのですがね」
カズキが小さな声でそう口にした。