トリカエバヤ
39
「お父さんは?」
キラはそう言って周囲を見回す。
「あちらに泊まり込みだ」
読んでいた本から顔を上げることなくカナードがそう答える。
「ちなみにミナ様とギナ様はそれぞれお呼ばれで出かけている」
今日は戻らないかもな、と言う言葉にキラは肩を落とした。
「お仕事?」
「そうだ」
「なら……しかたがない、ね」
何か嫌な予感がするから皆の顔を見て安心したかったんだけど、とキラはつぶやく。
「嫌な予感?」
それをカナードは聞き逃さない。即座に聞き返してくる。だが、キラはその問いかけに首を横にに振った。
「わからない」
何が起こるかまでは、とキラはつぶやく。
「ただなにか悪いことが起きるような気がするだけだから」
それがどのようなことかはわからない。それがもどかしいのだ、とキラは言葉をかみながらそう続ける。
「そうか」
カナードはそう言いながら本を閉じた。そしてすぐに立ち上がる。
「兄さん?」
「とりあえずあいつに連絡を取る。お前がそこまで言う以上、きっとなにかが起きるだろうからな」
そういうと彼がため息をついた。
「僕に……未来を見る、力はないよ?」
キラはそう言い返す。
「力はないが……こういうときのお前のカンは必ず当たるんだ」
間違っていればそれでいい。だが、万が一を考えると連絡しないわけにはいかない。カナードがそう続ける。
「事前に連絡があればいざという時の対処がしやすいだろう?」
そう言うものなのだろうか、とキラは首をかしげた。
「当たるも八卦、当たらぬも八卦と言う言葉もあるしな」
キラの頭をぽんと叩きながらカナードが笑う。
「……そういうもの、なのかなぁ?」
わからない、とキラはつぶやく。
「お前はそれでいい」
「兄さん……」
「お茶飲むだろう?」
「……うん」
こんなことでごまかされないから、と思いつつキラはうなずいた。
だが、今回のことを感じたのはキラだけではなかった。
「……何か、嫌なものが来るよ」
「怖い……あれ、怖い……」
そんな言葉を口にした子供が多くいたのだ。
「追いかけてくるよ」
「怖いよぉ、お母さん」
子供達は口々にこう言い、自分の親にすがりついた。ただでさえ第三世代が生まれにくいコーディネイターだ。子供達の訴えに顔を蒼くする。
問いかけなければ。しかし、どこに……と考えていたときだ。あの事件が起きたのは。
「……宇宙港が爆破された?」
その報告にギルバートが絶句する。
「国内シャトルの方はどうだ?」
だが、彼はそくざにこう問いかけた。
「無事です。とりあえず、現在使えないのは地球とのシャトルが発着するハッチです」
即座に言葉が返ってくる。
「まずいな……」
それにそう返すしかない。
「これでは食料がオーブから運ばれてきても受け入れることが出来ない」
どうするべきか。
「ともかく……上の指示を仰ごう」
勝手に動くことで状況を悪くするわけにはいかない。そうつぶやくとギルバートはきびすを返した。