トリカエバヤ
36
プラント評議会議員を狙ったテロはすぐに広まった。そのせいか、カズキも忙しく働いている。
「おとう、さん……だ、いじょうぶかな?」
珍しくミナもギナもいない食事の席でキラはこうつぶやく。
「心配いらないって。あの父さんだぞ」
即座にカナードが言葉を返してくれる。
「第一、狙われたと行っても爆竹ぐらいの爆発力だそうだし……あちらも心配いらないって」
擦り傷ぐらいだったそうだ、とさらに彼は言葉を重ねた。
「目的……」
「おそらくは陽動だったんだろうが……失敗してるな」
誰も引っかからなかった。
いや、正確には情報が回っていて先手を打っていた。だから、即座にザフトが動いたのだろう。
「クルーゼ隊長が犯人を捕まえたらしい」
まぁ、当然だろう。キラのことでかなり怒っていたみたいだから、とカナードは笑った。
「……そうな、んだ」
「あぁ。それともう一人、大西洋連邦軍にもいるぞ。クルーゼ隊長の身内だ」
その人が情報をくれたからこそ、自分達は間に合ったのだ。カナードはそう告げる。
「そうなの?」
「あぁ……ナチュラルがすべて敵ではないと言うことだ」
それ以上のことは今はまだ早い。ただ、それだけを覚えていろ。カナードはそう続ける。
確かにそうかもしれない。そう考えてキラは首を縦に振った。
「まぁ、当面、俺たちはここでおとなしくしているだけでいい」
ここには俺たちの許可がなければ入ってこられない場所にあるからな。そう付け加える。
「……買い物、は?」
「通販を頼んである。ここではなくて領事館の方に運んでもらうように手配しておいた。後はカズキが持ってくるだろう」
忘れてきたら食事抜きだ。そう言って笑うカナードは少し怖い。
「……それ、いいの?」
「気にするな。昔からだ」
それでも治らないんだから、呆れるよな。カナードはそう言う。
「ともかく、それを食べてしまえ」
彼の言葉にキラはうなずく。そしてスプーンを動かし始めた。
朝食後、しばらくして通信機がなった。
「……皿洗いを任せても大丈夫か?」
カナードがこう問いかけてくる。
「がんば、る」
それにキラはこう言葉を返した。
「頼んだぞ」
ぽん、とキラの頭を軽く叩くと彼は通信機の方へを向かう。それを確認してからキラはキッチンへと向かった。
軽く皿の汚れを落とすと食洗機へと並べていく。
そのままスイッチを入れれば食器洗いは尾張だ。後は食洗機が止まるのを待てばいい。
「兄さん、終わったよ」
そう声をかければ、カナードの方も通話を終わらせたらしい。
「キラ」
来い来い、と彼が手招く。いったい何の用事だろうとキラは歩み寄った。
「レイを覚えているか?」
「バレル、くん?」
「あぁ。ここに来てもいいかと言っているんだが」
いったいなぜ、と思う。だが、彼のピアノは素敵だったしとすぐに思い直した。
「いい、け、ど……」
「そうか。では、そう答えておくな」
その言葉にキラはうなずく。
「お前も少しは交友関係を広げていい頃だろう」
カナードはそういうと通信機の方へと戻っていく。どうやら保留にしていただけらしい。
しかし、久々にレイと話が出来るというと少しだけうれしくなるのはどうしてか。
「ピアノ、が、あれば……もっと良かった、のに」
それだけが残念だ、とキラはつぶやいた。