トリカエバヤ
33
「うまく忍び込んだが……どうやってターゲットと接触するか」
ため息と共に男がそうつぶやく。
「呼び出せないのか?」
別の男が問いかけてくる。
「無理だな。特に今は、だ」
「なぜだ?」
男の答えに問いかけた男が問いかけてくる。
「サハクが来ている」
その一言で彼らの間の緊張が高まった。
「どちらだ?」
「……二人とも、だ」
その言葉に男達の額に冷や汗が浮かぶ。
「なぜ?」
「……ターゲットと一緒にいることから判断して、我々に対する牽制かと」
まさか、と誰もが思う。
「我々の行動が読まれていると?」
「あるいは……どこからか情報が漏れていると考えられる」
自分達の行動はブルーコスモスの中でも機密に近い。それをどうやって調べ上げたというのか。
そう思うが否定することもできない。
サハクの双子と言えば、養父であるサハクの首長よりも有能だと言われている。そして、どのような機密であろうとかぎつけてくると有名なのだ。
「まずいな……」
自分達の行動がばれていると言うことは忍び込んでいることもプラント側に知られていると言うことだ。
「……協力者の存在がばれたのでは?」
それはもっとまずい。誰もがそう思う。
「確認を……」
「下手に動く方がまずいのでは?」
「相手はサハクの双子だ」
ではどうするべきか。結論はなかなか出なかった。
それが考えすぎによるものだと彼らが知ることはないだろう。
「そうか」
カナードの話を聞いてミナがつぶやく。
「ままならぬものよな、人の心というものは」
機械のように部品を取り替えれば治るわけではない。彼女はそう付け加える。
「そうできれば簡単だったのだがな」
忘れてほしいことも……とため息をつく。
「時間が……解決してくれるのではないでしょうか」
カナードはそう言い返した。
「そうであってくれればよいが」
どうだろうな、とミナが言う。
「あの子の心があの二人の死を受け止められるかどうか……」
ため息交じりにつぶやく。
「仲が良かったからな」
何よりも、と彼女は続ける。
「あの二人の殺された方法を考えれば……難しいかもしれん」
なぶり殺しというのがふさわしい状況だった。それは他の被害者の肉親も同じだが、とミナが告げる。
「まぁ、近々、報復するつもりだが」
生きていることを公開させてやろう、と彼女は嗤った。その笑みがとても恐ろしい。
「……キラも……いつまでもこのままではいられまい」
いつか思い出す日が来るだろう。そのときに自分達が出来ることはなにか。それを考えておけ、と言うミナにカナードはうなずく。
「わかっています」
共倒れになるかもしれない。それでも支えたいのだ。カナードはこっそりとそうつぶやいた。