トリカエバヤ
30
眠っているキラを受け取るとカナードが部屋へと移動していく。
「さて……我らが出かけている間に何があった?」
皆がそう言ってカズキをにらむ。
「……何があったと言われると、何もないと返すしかないんですが」
まだ、と彼は言い返す。
「何があった?」
「キラに見合いの話がきました」
その言葉を聞いた瞬間、ミナの視線に厳しい光が浮かぶ。
「ただ、全部相手が男なんだ」
しかし、こう続けた瞬間、ミナが一瞬だけきょとんとした。そして即座に爆笑をする。
「まったく……キラの遺伝子がほしいのだろうが、男とは結婚できんだろうが」
「こちらが出した書類を鵜呑みにしているのでしょうが」
「あぁ、あれか。こちらではまだ訂正していなかったな」
明日してこい、とミナが言う。
「どのような口実で?」
「遺伝子不良で性別が確定していなかった。こちらに来る前の検査でようやく確定したから訂正しておくと」
そもそも、キラの書類にはそう書いてあったはずだが? と彼女は首をかしげる。
「ひょっとしたら、その部分が欠落していたかもしれません」
「ふむ。戻ったら調べなければな」
手抜きはいけない、とミナは続けた。
「そうですね。手続きは明日やっておきましょう」
「あぁ、そうしてくれ」
キラが《男》だと気づいたときの連中がどんな顔をするか。それが楽しみだ。
「あぁ、カガリの方も直しておかないといけないな」
そちらの方は多少遅れてもかまわないだろうが。ミナはそう続ける。
「……連絡を入れておきますか?」
「そうだな……守秘回線が使えるんだったな」
「えぇ」
「なら頼むか。そうだな……秋声聞こえるか、で通じるだろう」
「かしこまりました」
そう言って頭を下げればミナはうなずく。
「あぁ、あと一つ」
「何でしょう」
「ギナには話すな」
相手を殺しに行きかねん、と言われてその光景があっさりと脳裏に浮かぶ。
「相手を殺しに行きかねませんね」
「あぁ。だから何が何でも隠し通せ」
「わかりました」
さすがに殺しはしないだろうが、相手を血まみれにするぐらいはするだろう。最悪国際問題だ。
それで帰れればいい。
問題はそのことを盾に二人を取り上げられることだろう。
絶対にそれは阻止しなければいけない。
即座にそう判断するとカズキはしっかりとうなずいて見せた。
「どういうことだ?」
意味がわからないと男は言う。
「……男同士で子供が出来るのか、と……」
「意味がわからん」
「書類の性別が間違っていたそうで……」
訂正していたのだが、提出分は間に合わなかったのだとか。そう続ける部下に、男は忌々しそうに手にしていたカップを投げつける。
「うちにいるのは男だけだ。まったく……」
せっかくいい手だを思ったのに、とそう続けた。その様子を部下は冷めた目で見つめている。
「まぁ、いい。それならそれで別の手段を執るまでだ」
それに気づいているのかいないのか。男はこう口にしていた。