トリカエバヤ

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 腕の中で眠ってしまったキラにミナは笑みを浮かべる。
「まったく……」
 そんなことが出来る人間はそういないのだが、とミナはつぶやく。
 だが、それが出来るのがキラの強みだろう。そして、出来るからこそキラは自分達の愛し子なのだ。
「カガリも図々しいが、お前もなかなかのものだな」
 もっとも、と彼女は続ける。
「カガリとは違って、お前は計算はしていないだろうがな」
 あの子は行動だけ見れば何も考えていないように思える。しかし、そのじつ計算高い。
 だから、どこまでが本心でどこからが計算なのかがわからないのだ。
 もっとも、カガリの考えていることぐらいは自分達から見ればカワイイものである。だからかわいがっているのだが、と続ける。
 だが、キラはそんな計算はまったくしていない。
 無意識に自分達の機微を読み取る。そして、行動するのだ。記憶があったときも今もそれは代わらない。
 結局、キラの本質は何もゆがめられていないのだろう。ただ、そこに思い出がないだけなのだ。
 それが哀れだと思う。
 記憶がないから自分に自信が持てないのだ。
 本当に沢山愛されていたのに、とそう心の中だけでつぶやく。
「どれだけ愛せば、あの方々がお前に与えてきた愛情に追いつけるのだろうな」
 それとも永遠に追いつけないのか。
 だが、追いつけないまでもキラが一人で歩けるようになる位の愛情は与えてやりたい。
 そんなことを考えながらミナは歩いて行った。

「……キラに見合い?」
 何を考えているのか、とカナードはつぶやく。そしてカズキをにらみつけた。
「まさか受けたんじゃないだろうな」
「受けるわけないだろう」
 キラが今いくつだと思っているんだ? とカズキは言い返す。
「まだ十歳だぞ? それなのに見合いなんてさせられるか」
 いくらプラントでは普通のこととは言え、オーブでは考えられないことだ。それに、と彼は続ける。
「キラはもちろん、お前にも恋愛結婚をさせるつもりだからな、俺は」
 見合い結婚も政略結婚もさせない。彼はきっぱりと言い切った。
「つまり見合いの相手だと言ってくる人間は放り出していいと」
「そう言うことだ」
 ただし殺すなよ、と言われてカナードはため息をつく。
「善処する」
 そして一言、こう言葉を返す。
「キラに見られるぞ」
 ぼそりとカズキが口にする。
「それはまずいですね」
「わかったら本気で自重してくれ」
 後始末が面倒だから、と本音を漏らすカズキにカナードは苦笑を禁じ得ない。
「せいぜいギナ様にちくるだけにしておきます」
 とりあえずこう言い返しておく。
「それはそれで怖いが……まぁ、確かに一番効果的だろうな」
 ミナ様でないだけましなんだろうな、とカズキはつぶやいていた。
 ギナの場合、実力行使に出るがミナだとあらゆる方面から相手を攻撃し、最後には破滅させる。それを知っているからこそのセリフだろう。
「とりあえず、キラに気づかれるな」
「わかっている」
「ならばいい」
 そういうとカズキは立ち上がる。
「父さん?」
「ミナ様とキラが帰ってきた」
「そうか。じゃ、迎えに行かないとですね」
 そんな会話を交わすと、二人はさっさと歩き出した。

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最遊釈厄伝