トリカエバヤ

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「ミナ様……」
「気にするでない。こちらに今まで通りの量を送ればオーブの民が飢える。これがぎりぎりよ」
 あちらとしては足りないだろうが、仕方がない。他国からかき集めるにしてもその分、価格が上がるのは当然だ。ミナは冷静な声音でそう続ける。
「問題はお前達の方だな」
「僕たち?」
 意味がわからないと言うようにキラが首をかしげた。
「お前が私たちの愛し子である以上、あちらがちょっかいをかけてくる」
 もっとも、とミナは笑う。
「お前達の望みでも聞けないことがある」
 それはわかっているだろう? と彼女は続けた。
 ミナの言葉にキラは小さく首を縦に振ってみせる。
「僕、より……皆の方、が優先」
 それは当然のことではないか。キラはそう口にする。
 逆に自分を優先するようなミナはミナではないと続けた。
「そうか」
 その言葉を聞くとミナは面白そうに目を細める。
「ならばいい。まぁ、その代わりギナがお前を優先するだろうが」
 あれはお前を第一に考えるからな、と彼女は続けた。
「い、いの?」
「かまわぬ。あれの尻ぬぐいには慣れている」
 それに、とミナはキラを抱きしめる腕に力を込めた。
「私ができぬことをあれがする。昔からそうやってきたからの」
 今回の交渉担当はあくまでも自分だ。ギナがなんと言おうと受け流すだけよ。ミナの言葉にキラは小さくうなずく。
「何、心配するな。あちらもそのような悪手は打つまいて」
 打ってきたならばただではすまさぬが。そう言うミナの胸にキラは黙って頭をあずけた。

 立ち去る二人の後ろ姿を見送りながらユーリ・アマルフィはため息をついた。
「出来れば個人的に話がしたかったのだが……」
 あの様子では耳を貸してもらえなかっただろう。逆に機嫌を損ねたかもしれない。
「父上?」
 どうかしたのですか、とニコルが駆け寄ってくる。
「知り合いに会ったのだよ。ラクス様のコンサートにお誘いしたのだが、お連れのこの体調が悪いと言うことでフラれてしまった」
「……ラクス様のコンサートを無視するとはよほどですね」
 大丈夫でしょうか、とニコルはつぶやくように口にした。そんな風に見知らぬ相手も心配できる優しい子に育ったのは妻のおかげだろう。
「人酔いしただけだそうだが……それ以外の理由もありそうだな」
 あの様子はただの人酔いには思えない。今さらながらその事実に気づいた。
「なにか事情があると思っていいだろうな」
 だからといって、それを利用しようとは思えないが。それでも、彼らにばれればそこをつこうとするだろう。
 しかし、彼女がそれを見通していないとは思えない。
 あるいは踏み絵なのか。
 あの子供にどう反応するか。それによって今後の対応を決めようとしているのかもしれない。
 だとするならば、何が何でも止めなければいけないだろう。
「父上?」
「すまん、ニコル。何でもないよ」
 だが、今はそれは脇に置いておこう。
 今は息子との時間を優先すべきだ。そう思い直す。
「行こうか」
 そう言ってユーリはニコルにてを差し出す。
「はい」
 うれしそうに息子は父の手を取った。

「あの子供が鍵か」
 報告書を見つめながら男はそうつぶやく。
「なんとか手に入れることが出来れば……」
 その言葉が男の未来にどのような意味を持つのか。このときの彼はまだ知らなかった。

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最遊釈厄伝