トリカエバヤ

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  27  



 少年か少女か判断がつかなかったが、本当に可愛い子だった。アイリーンは胸の中でそうつぶやく。
 連中の暴走もある意味納得できる。
 しかし、だ。
 ミナをこれ以上刺激するのはまずい。それ以上にギナにぶち切れられるのはもっとまずいだろう。だから、絶対にこれ以上の暴走は止めなければいけない。
「さて、何が出来るかな」
 今の自分に、とそうつぶやく。
「ともかくあの子にまとわりつくうるさいはえをたたき落とすぐらいは出来るわね」
 本当に困った問題だ、と彼女はため息をついた。
 第三世代の出生率減少。それがコーディネイター 自分達の種の顕界だとは思いたくない。
 それでは何が原因なのか。
 それさえ解明できれば何も問題なのだ。
 しかし、コーディネイターの種としての問題であるとするなら話は厄介になる。どうしても自分達はナチュラルとの縁を切ることが出来なくなると言うことと同義だからだ。
「誰に相談すべきかしら」
 普通に考えればタッドだろう。しかし、彼は反ナチュラルなのだ。この事実を知れば余計に婚姻統制を強めるだろう。
 最悪、オーブとの関係も悪化する可能性すらある。
 では他に誰がいるか。
「あれしかいないわよね」
 ため息とともにそう口にした。
「ものすごく不本意だけど、声をかけるしかないわね」
 専門家だし、とアイリーンは再びため息をつく。
「ただ、いろいろと厄介なのよね、あいつ」
 何を条件にすれば聞いてもらえるだろうか。それがよくわからないのだ。
「当たって砕けるしかないかしら」
 それもまた経験の一つだろう。そうつぶやくと彼女は立ち上がった。

「ミナ様、ここは……」
 どこですか、とキラは周囲を見回しながら問いかける。今までも外出したことはあるが、こんなに沢山の人がいる場所に来たことはなかったのだ。
「……ふむ……ラクス・クラインのコンサートがあるようだな」
 ミナがそう教えてくれる。
「ラクス・クライン……」
 確か、こちらに来るとき、船で出会った子がそんな名前だったはず。キラがそんなことを思い出していれば、ミナが「知っているのか」と問いかけて来た。
「来るとき、同じシャトル……でした」
 ニコルという少年と一緒だった、と続ける。
「あぁ、アマルフィか」
 皆がそう言ってうなずく。
「お前達がこちらに来る直前、二人のコンサートが地球で会ったからな。その帰りだろう」
 聞きたいか? と彼女は問いかけてくる。それにキラは小さく首を横に振った。
「いいのか?」
「チケット、持ってません」
 権力でごり押しをするのはいやだ、と続けた。
「我もそうよ」
 だが、キラが聞きたいというのであればごり押しも厭わぬと思ったが、と彼女は付け加える。
「キラがそう言うのであれば戻ろうか」
 そう言って微笑む彼女にキラはうなずく。
「まぁ、次の機会もあろうよ。そのときはカナードも引っ張り出せば良い」
 ミナがそう続けて足を踏み出そうとしたときだ。
「ミナ様、珍しいところでお目にかかりますな」
 どこからかそんな声が飛んでくる。しかも、聞き覚えのない声だ。だが、ミナの名を呼んだと言うことは彼女の知り合いなのだろうと思う。
「アマルフィー殿か」
 かすかに眉根を寄せながらミナは彼の名を呼ぶ。と言うことはあまり会いたくない相手と言うことなのだろう。
「どうしてこちらに?」
 だが、ユーリは気にすることなく問いかけてくる。
「この子の気分転換よ。もっとも人酔いしているようでな。これから連れて帰るところだ」
 この子達の家ならばすぐに良くなるだろう、と彼女は続けた。
「そうですか」
 ミナに何か話でもあったのだろうか。彼の様子からキラはそう推測する。
「……言っておくが野菜の量は増やせぬぞ。本土でも不足しておるからな」
 では、とミナはキラを抱えたままきびすを返す。
「あっ」
 引き留めようとユーリが手を伸ばすのがミナの肩越しに見える。だが、ミナは気にすることなく歩き出した。

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最遊釈厄伝