トリカエバヤ
23
「戻ってきたか、バカ親父」
玄関に仁王立ちになったカナードがカズキに向かってそう言い放つ。
「それが父親に向かって言うセリフか?」
「ほうれんそうをしっかりしていれば言わないがな」
もてなしの準備もきちんと出来ただろうに、とカナードが言う。
「……そちらの方か」
何を怒っているのかわかったからか、カズキは視線をそらす。
「お二人に食べていただく料理の材料を用意するところから始めなきゃなかったんだぞ、俺は」
その間、ギナ様の相手はキラにしてもらったが、とカナードはため息をつく。
「俺としてはそんな不作法なまねはしたくなかったんだが?」
「そうは言うが、俺だって直前に知らされたんだぞ」
「そのまま連絡してくれれば良かっただろうが!」
そのくらいの時間は合ったんじゃないか? と彼がさらに突っ込んでくる。
「何のための携帯端末だよ!」
そう付け加えられては返す言葉もない。
「ともかく、ミナ様は中へどうぞ」
キラが待っています、とカナードが言う。
「そうか。では失礼するぞ」
ミナはそう言うとカナードの脇をすり抜けて奥へと進んだ。
「オヤジはダメだ」
「何でだ?」
「買い忘れがある。買ってきてくれ」
「お前が行けばいいだろう?」
「その場合、誰がミナ様にお茶を出すんだ?」
お前のくそまずいお茶じゃないだろうな、とカナードが言えば勝負はついたようだ。
「……行ってくる」
振り向けば肩を落としつつ去って行くカズキの姿が見える。
「まったく……いい加減、自分がメシまずなのを自覚しろって」
そうつぶやきながらカナードが振り向いた。その瞬間、彼と目が合う。
「お見苦しいところをお目にかけました」
即座に彼はこう言ってくる。
「気にしなくて良い。我らも事前に連絡を入れるのを忘れておったからな。慌てて連絡したのだが、少し遅かったようだ」
「いえ。入港直前に連絡をよこされたのだとしても、十分に猶予はありましたから。すぐに連絡をくれれば良かっただけです」
悪いのはカズキだ、とカナードは言う。
「とりあえず奥へどうぞ。キラもいますからかまってやってください」
その間にお茶を用意して夕食の準備を進めておく。相違彼にうなずいて見せた。
「では、言葉に甘えよう。愚弟が悪さをしておったら大変だしの」
「大丈夫だと思いますが」
「わからぬからな。この目で確認させてもらうとするか」
そう言うとミナはリビングへと足を踏み入れる。
「ミナさ、ま?」
キラがそう言ってギナの膝から降りようとした。しかし、ギナの腕がキラの腰を抱いているせいで出来ないらしい。じたばたとしている。
「姉上か。話し合いは終わったのか?」
「話にならぬ。このままでは本気で大使を引き上げねばならぬな」
呆れたように口にしながらミナはソファーに腰を下ろす。
「キラのことだけではないわ。今後、オーブから派遣されるもの全員のDNAがほしいと言いだしおって」
まったく、とぼやく。
「それはそれは……」
「上の方はそのようなことを言っておらなんだものを」
下の方の暴走であろうな、と彼女は付け加える。もっとも、それにも理由はあるらしいが、とため息をつく。
「だからといって許せるわけがなかろう」
そう告げるミナにギナもうなずいて見せた。