トリカエバヤ

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 キラがレイの存在に慣れてくれた。
 しかし、心を許してくれるところまでは行き着かなかった。
「まぁ、仕方がないか」
 初対面だし、とラウはつぶやく。他の人間であれば慣れるのですら時間がかかるのだ。
 キラがこんなに早くレイの存在に慣れてくれたのも、彼がラウによく似ていたからだろう。
「しかし、不思議だね」
 同じ遺伝子でも成長過程が違えば異なる趣味趣向を抱く。それでも、大切なものは代わらないのだ。
 もちろん、レイのDNAは提出するときに偽装してある。そうでなければこの国では大騒ぎになりかねないのだ。
「初めて顔を合わせたはずなのに、君があそこまでキラを気にかけるとは思わなかったよ」
 視線を彼のつむじへと向けながらそう告げる。
「……キラさんは……年上なのに守らなければいけないような存在ですから」
 その言葉にレイはこう言い返してきた。
「その感情も遺伝子に焼き付けられたものかもしれないぞ?」
「これならばかまわないです」
「そうか」
 やはり遺伝子に焼き付けられているのかもしれない。その場合、焼き付けたのは自分だろうか、とラウは思う。
「まぁ、いい。レイ。部屋に戻りなさい」
 自分は仕事を片付ける、とラウは優しく告げる。
「はい」
 では、夕食の時に……と言うと彼は素直に移動していく。本当に《自分》とは思えない素直さだ。それとも、自分もそうなる可能性があったと考えるべきか。
「まぁ、考えても仕方がないね」
 それが自分だから、とラウはつぶやく。
「さて、仕事を終わらせるとしようか」
 いやそうな口調でそう告げる。
「その後で襲い来る台風の対策を考えないといけないだろうね」
 本当に厄介だが、別の方向から見れば心強いと言えるだろう。しかし、その台風を真っ向から受け止めなければいけない人間にはそんなことは行っていられないはずだ。
 だからといって自分にはどうすることも出来ないが。いや、そもそもする気もない。
「自分達のうかつさを恨むのだね」
 キラがほしいのであれば正式な手順を踏むべきだった。もちろん、断られることを覚悟の上でだ。それをしなかった君たちが悪い、とラウは笑った。

 久々にギルバートも含めて夕食の席に着いた。
「おそらく、数日中に台風が来るよ」
 その席でラウがこう告げる。
「台風?」
 このプラントで、とギルバートは聞き返す。
「比喩だよ」
 口元に笑みを刻みながらラウは言葉を綴る。
「まぁ、そのくらい大騒ぎになるだろうね」
 特に一部の人間にとっては、と彼は続けた。
「ラウ?」
「どちらか──あるいは双子がそろって火はわからないが、来るぞ。サハクの双子が」
 彼の言葉にギルバートは手にしていたカトラリーを取り落とす。
「……サハクの双子が……来る?」
 なぜだ、と言外に問いかける。
「キラの遺伝子を執拗に狙うバカがいるそうだよ」
 ことあるごとに『検査させろ』『登録しろ』と迫っているそうだ。彼は何時もと変わらぬ様子でそう告げた。
 しかし、ギルバートの方はそう言うわけにはいかない。
「どこのバカだ、それは」
 あの子は、厄介な事情を持っているとも聞いている。
 そんな子供のDNAをほしがるというのはプラントに縛り付けると同義だ。  オーブは中立。しかし、氏族の子供が奪われるとなれば話は別だ。まして、あの子供はあのサハクの双子がかわいがっているという。
「それを調べるのは君だろう?」
 にこやかに告げられる言葉に、一瞬、殺意がわいたことは否定できな事実だった。


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最遊釈厄伝