トリカエバヤ

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「レイ・ザ・バレルと言います。よろしくお願いします」
 そう言って頭を下げた少年はキラよりも小さいだろう。しかし、その顔はラウにそっくりだ。
「カナード・バルスだ」
「キラ、です」
 それでもラウと違って信用することが出来ない。それはあったばかりだからだろうか。そう思いながらカナードは自己紹介をする。その後に続いてキラも頭を下げた。
「はい」
 ふわりとレイが笑う。
 そうすれば、なまじラウの面影があるだけに違和感が半端ない。少なくともラウがそんな表情をすることはないのだ。
「……うさんくせぇ」
 何か企んでいそうで思わずそうつぶやく。
「ひどいね。あの子はいい子だよ」
 少なくともキラに関しては、とラウがささやき返してくる。
「さて……このままではキラも疲れてしまうだろう。リビングに移動しよう」
 さらに彼はこう告げる。
「レイ。ピアノを聞かせてあげなさい」
 その言葉にキラが顔を上げた。
「ピアノ、弾けるの?」
「えぇ……少しだけですが」
 キラの言葉にレイがそう答える。
「謙遜を。ニコル・なるほど……これが同族嫌悪という奴か」
 納得した、とカナードはうなずく。こんな風に単語として残っているのだ。昔からあるものではないか。だから自分が特別なわけではない、と結論づける。
「カナードにもお菓子があるよ」
「アマルフィには負けるが、なかなかのものだよ」
 そのレイの言葉をラウが否定した。
「聞いてみるかい?」
 さらにキラに向かって問いかけている。本当にキラしか目に入っていないらしいな、とカナードはため息をつく。まぁ、そう言う存在だと聞かされていたから怒るようなことはないが。
 それに、自分だってそうなのだ。似たもの同士である以上、呆れるしか出来ない。だからといって仲良くする気はさらさらない。
「菓子でごまかされるような子供じゃないが?」
 即座にそう言い返す。
「おや? そうだったかな?」
 からかうようにラウが言ってくる。
「十分子供だと思うが?」
 成人を迎えていない以上、と彼は続けた。
「……そうかもしれないが……」
 カナードは悔しげにつぶやく。
「それでも、俺は菓子で喜ばないぞ!」
「わかった、わかった。何かしょっぱいものを用意してもらおう」
「そういうことじゃない!」
 カナードがそう叫んだときだ。
「……ひっ」
 ラウの腕の中でキラが小さな悲鳴を上げる。
「あ……すまない、キラ。お前に言ったわけじゃない」
 慌ててカナードがそう告げた。
「怒ったわけじゃないから」
 だから、怖がるな。そう口にしながらもおろおろとしているカナードは珍しい。自分が覚えている彼は唯我独尊という表現がぴったりと来る少年だったのに、とラウは心の中だけでつぶやく。
「私がからかいすぎただけだ。機嫌を直してくれないかな?」
 ラウは腕の中のキラにそうささやく。だが、キラは逆にきゅっとラウの服をつまむと首を横に振った。
「しばらくは無理そうだ」
 ため息なじりにラウはカナードに言う。
「……仕方がない。自業自得だ。甘んじて受け入れよう」
 カナードがこう言い返してくるのにラウは小さな笑みを浮かべた。


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最遊釈厄伝