トリカエバヤ
18
朝、迎えに来たラウと向かったのは大きなお屋敷だった。
「……ここは?」
呆然と見つめているキラの隣でカナードが問いかける。
「私の居候先だよ」
微笑みながらラウは言う。
「……それって、まずいところじゃなかったか?」
カナードが顔をしかめながら言い返す。
「まずいの?」
その言葉にキラが首をかしげた。
「……悪い人達?」
「いや、違うよ」
キラの問いかけにラウはすぐに首を横に振る。
「家主が評議会議員なだけだよ」
それがどのような地位なのかわからないキラは困ったような表情を作って見せた。しかし、カナードは知っているのだろう。厳しい視線をラウに向けている。
「DNAをよこせと言い出す訳か?」
そしてこう問いかけた。
「それは私がさせない」
そんなカナードにラウがこう言い返す。
「私としてはもう一人の居候をキラに紹介したかっただけなのだが」
確か、キラよりも一つか二つ年下だと思ったが、とラウは続ける。
「キラも一人で家に閉じこもるのはまずいだろうしね」
たまには外に出たいときもあるだろう。そのときにカナードの都合がつかなければあの子を呼び出せばいいと思ってね」
にこやかな表情で言うラウに迷惑じゃないかな、とキラは思う。
「大丈夫、なの?」
勝手にそんなことを決めて、と言う意味を含ませてキラは問いかける。
「大丈夫だよ。まぁ、会ってみればわかるかな」
中に入ろうか、とラウはキラを抱き上げると体の向きを変えた。そのまますたすたと歩き出す。
「ちょっ!」
予想もしていなかったのだろう。カナードはすぐに反応できない。ラウの背中を見送りかけて慌てて追いかける。
玄関をくぐれば出迎えのメイドがいた。それだけでも目をむきたいのに、さらに執事まで出てくる。
「本当にただの居候かよ」
カナードがそうつぶやく声が聞こえた。
「私はね。この家の主人がはそう思っていないようだが」
「ラウ様は黄道同盟の方で功績を挙げておいでですから」
執事が彼の言葉をフォローするようにそう告げる。
「黄道同盟?」
「あぁ、お嬢様はまだお小さいからお聞きになったことはないのですね。ザフトの前の組織です」
執事がこうささやいてきた。
「功績というほどのものではないよ。たまたまだ」
そう言う。
「……どっち、が……本当?」
キラがラウの腕の中から問いかける。
「どっちだろうね。とりあえず些細なことだよ」
小さな笑いとともにラウはそう告げた。
「あぁ……レイを呼んでもらえるかな?」
その表情のまま、彼は執事を遠ざけるようにこう告げる。
「レイ? だれ?」
「私の弟、のような者かな」
「……弟?」
意味がわからないのか。キラは何度もつぶやいている。
「会えばわかるかな?」
そんな様子を見てラウはそう告げた。
「……キラに危害を加えないだろうな?」
確認するようにカナードが問いかける。
「もちろんだよ」
ラウは笑顔でそう答えた。