トリカエバヤ
17
カズキが帰ってきたのはもうじき日付が変わろうとする頃だった。
「お帰り」
そんな彼をカナードは出迎える。もちろん、今日あったことを彼に報告するためだ。
「何かあったのか?」
「いろいろとな」
ため息交じりに彼に言葉を返す。
「出来ればサハクの双子に連絡を入れてほしい」
さらにそう続ける。
「報告書を出さなきゃないからな」
「ならば、ついでにプラント側──おそらく一部の暴走だろう──がキラのDNAをよこせと言ってきた、と伝えてくれ」
「……それは条約違反だろうが」
何を考えているのか、とカズキがつぶやく。
「それであの双子か」
「あぁ。俺が直接連絡を取るのは最後の手段にしたいからな」
「それがいいだろう」
お前が連絡を入れれば無条件で飛んできそうな人がいるからな、とカズキがため息をつく。
「もっとも、今回のことで飛んできそうな気もするが」
「……十分にあり得る話ですね」
と言うより、絶対に来るだろう。そして、プラント側に抗議という名の嫌がらせをして行くに決まっている。
「来るのがミナ様であればいいのですが……」
ギナであった場合、どのような被害が出るかわからない。そう続けた。
「やはりか」
カズキがため息とともにつぶやく。
「仕方がない。上層部にこっそりとささやいてもらおう」
あいつなら不可能ではないし、と付け加える。
「誰ですか?」
「ラウだよ」
あいつはザフトでそこそこの地位に就いているらしい。ついでに言えば、居候先が評議会議員の所だ。そう言ってカヅキが笑った。
「……ついでに今回のことをばらすと……」
「それなりの行動に出るだろうね」
「あの人もキラ大好きだからなぁ」
そんな会話を交わしながら笑ってしまう。
「終わったな、あいつ」
ぼそっとつぶやかれた言葉が一番怖い。もっとも、即座に行動に移したのは言うまでもない事実だ。
その結果がどうなったかは言わなくてもいいだろう。
「ラウさん」
にっこりと微笑むとキラは彼に抱きつく。
「久しぶりだね、キラ。大丈夫だったかい?」
そんなキラの体を軽々と抱き上げながらラウは聞き返してくる。
「兄さんがいてくれるから……怖い人はいたけど」
「ほぉ?」
キラの言葉にラウは視線をカナードへと向けた。
「入国の時に管理官にキラがいじめられたことと、後は報告の時にDNAをよこせ、と言われたことがメインだな」
すでにあちらに報告済みだ、と彼は言い返す。
「……そうか」
どうやら徹底がなされていないようだね、とラウはとてもイイ笑顔を浮かべる。
「……ラウさん?」
どうして彼がそんな表情をするのかわからずにキラは問いかけた。
「あぁ、何でもないよ」
それよりも、とラウは話題をそらすかのように言葉を重ねる。
「今度、一緒に出かけてくれないかな?」
「……お出かけ?」
「大丈夫。私と一緒だから怖くないよ」
「……本当?」
「嘘は言わないよ」
どうする?とラウはキラの顔をのぞき込んで来る。
「……兄さんも一緒、でいい?」
「あぁ」
ラウの言葉にキラは小首をかしげた。
「兄さんも。一緒なら……」
その言葉にラウは微笑む。
「かまわないよ」
そう言うと彼はキラの髪をそっとなでた。