トリカエバヤ
16
カナードが戻れば、キラはおとなしく学習プログラムで自習をしていた。
「ただいま」
声をかければぱっと顔を上げる。
「お帰りなさい」
そのまま立ち上がるとカナードに抱きついてきた。
「ただいま」
その体を受け止めながら彼は微笑む。
「御用事、終わり?」
「あぁ。これでしばらくは一緒だ」
カナードがそう言えばキラはほっとしたような表情を作る。
「それよりも、勉強の方は進んだのか?」
その問いかけを耳にした瞬間、キラは先ほど目にした光景を思い出して肩をふるわせた。
「どうかしたのか?」
不審に思ったのだろう。カナードが問いかけてくる。
「パソコン、が……怖いこ、とになった」
今は使えているが、それでも爆発しそうで怖い。キラはなんとかそう告げる。
「……何をしたんだ?」
「ギナ、様の……つくっ、たプログラム、動かした」
怖かった、と続けた。
「確認するから、ちょっと見せてみろ」
その言葉にキラはカナードから離れる。即座に彼はキーボードへと手を伸ばした。
いくつかのキーを叩いて何かを確認している。
「とりあえず爆発はしないから安心しろ」
そして、すぐにこう言ってきた。
「ほんと、う?」
「嘘は言わない」
「よ、かった……」
ほっとしたようにキラはつぶやく。本気で恐ろしかったのだ。
「そんなに怖かったのか?」
「……モニター、が……ビカビカって……おかしくなった、のか、と思った」
ソフトを起動したら、とキラは続ける。
「ギナ様のお茶目だろう」
「……そう、かな?」
「あぁ。だから安心していい」
カナードの言葉にキラは首をかしげた。そのまましばらく考えてから小さくうなずく。
「いい子だ。あぁ、一緒に買い物に行くか?」
「でて、いいの?」
「住民登録はしてあるし、買い物をしなければ食べ物もないからな」
だからかまわないだろう、とカナードは笑う。
「ん」
キラは彼の表情に安心する。そしておずおずと笑みを浮かべた。そうすれば彼の手が頭をなでてくれる。
「あぁ、そうだ」
一つだけ注意をしておく、とカナードはまじめな表情を作ると口を開く。
「何?」
「お前のDNAをほしがる人間が来ても断れ。オーブの人間にはその義務はないからな」
DNAは究極の個人情報だ、と彼は続ける。
「まだ婚約者はいらないだろう?」
「……婚約?」
なぜ、その単語が出てくるのだろうか。そう思いながら彼の瞳を見つめる。
「この国ではDNAの相性がいい相手を婚約者としているんだ。しかも、新しい血をほしがっている」
俺やお前は格好の獲物だと笑う。
「そ、なの?」
「あぁ。だから絶対に渡すなよ」
わかった、とキラはうなずいてみせる。
「いい子だ」
そう言うとカナードがまた頭をなでてくれた。