トリカエバヤ

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 カズキは仕事に行き、カナードも所用を済ませるために外出している。そのためにキラは宿舎に一人でいた。
 一人なのは久々だ。だから手持ち無沙汰だと言うことは否定できない。それ以上に一人は少し怖い。
「……勉強、しなきゃ」
 ギナから渡された学習プログラムを進めていけば時間はつぶせる。そう考えてパソコンを開く。
 キーボードを叩いてロックを解除すればそこにはシンプルなアイコンが並んだデスクトップが表示される。その中の一つをキラは選択した。
「これ、をクリック」
 そう言いながらプログラムを起動すれば、なにやらあれこれと動き出す。そんなことになるとは思わなかったキラは目を丸くした。
「ギナさ、ま……何、くれた、の?」
 まさか爆発しないよね、と思いながらそれを見つめるしか出来ない。
 やがて画面が落ち着くと同時に学習プログラムが立ち上がった。
 一件、それは普通のプログラムのようだ。しかし、先ほどの光景を見ているととてもそうだとは思えない。
「……何か、ある?」
 これの中に、とキラはつぶやく。しかし、それが何なのかはわからない。
 わからないなら勉強すればいいだけだ。
 そう結論を出すまでは早かった。
「爆発、しないなら……いいや」
 いくらギナでもそんな危険なものは渡さないだろうし、とつぶやく。
 それよりも解析したい。
 そのためには知識をつけなければいけないだろう。
 知識をつけるためには勉強しなければいけない。
「勉強、しよ」
 ため息をつくとキラは目の前のモニターを見つめる。同時に指がキーボードの上を統べるように動き出した。

 目の前の建物は役所だ。正確に言えばその支局の一つ、と言うべきだろう。
「では、手続きは一つ除いて完了しました」
「おかしいな。すべて完了だと思っていたが」
 役人の言葉にカナードは役人をにらみつける。
「後お一方のDNAを登録していただきたいと……」
「……オーブからの出向者にその義務はなかったはずだ」
 そう、条約で決められているはずだが……と言外に告げた。
「ですが!」
「我々は任期が明け次第オーブに戻る。プラントの婚姻統制とは関係ない。そう決められている」
 たとえプラントが何を望んだとしても、自分達はその政策の外側にいるのだ。そう続ける。
「そもそも、俺とキラを学校に通わせるつもりはないんだろう? それなのに婚姻統制の義務は負わせる。おかしい話だろうが」
 そう言うとカナードはさっさと立ち上がった。
「登録されなければ居住許可は出せませんが?」
「ならば俺たちは出て行く。それだけだ」
 プラント側の条件でオーブの大使館の人間を国外退去を命じる以上、それなりの報復があると思え。そう言いきる。
「何をしている!」
 そこに上司らしい男が声をかけてきた。
「そいつが下の子のDNAを登録しろとうるさいだけだ」
 居住許可を出せないとも言っていたな、と続ける。
「だから、出て行く。その後のことは知らない、と言ったが……間違っているか?」
 ここはプラント籍を持っていない人間の滞在許可をもらう場所だと思っていたが、とカナードは役人をにらみつけた。
「君は!」
 それに上司は役人へと視線を向ける。
「……我々には新しい血が必要なのです!」
 開き直ったかのように役人は言葉を口にした。
「DNAの登録ぐらいかまわないじゃないですか!」
「それが余計なことなのだよ」
 DNAは究極の個人情報だ。プラントのように最初からコントロールされていない以上、強要することは出来ない。そう言いきる上司に『まだまともな人間もいたか』とカナードは思う。だが、今は、と彼は口を開いた。
「それで?」
 帰っていいのか、と問いかける。
「えぇ。手続きはこれで終わりです」
 申し訳なかった、と頭を下げる彼にカナードは「気にしなくていいです」と答えるとその場を後にした。

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最遊釈厄伝