トリカエバヤ

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 目を覚ますと、そこは見たこともない部屋だった。いったいどこだろうと思いながらキラは体を起こす。そして周囲を見回していたときだ。
「……キラ」
 カナードが苦笑とともに声をかけてくる。
「気がついたようだな」
 良かった、と彼は付け加えた。
「ここ……」
「宿舎だ。お前は気を失ったから後はそのまま素通りだったな」
 あいつらは上司に怒られていたようだが、と彼は笑う。
「……僕……」
「気にするな。あいつらが悪い」
 お前のトラウマに関しては事前に診断書を提出してある。それよりもカズキをいたぶることを優先した連中が悪い、と彼は続けた。
「それよりも気持ち悪くはないか?」
 頭痛がするとか吐き気がするとか、と口にしながら彼はキラの顔をのぞき込んでくる。
「大丈、夫」
 でも……とキラは首をかしげた。
「おなか、すいたかも」
 自分の腹部に手を当てながらキラはそう続ける。
「……そうだな。おかゆぐらいなら大丈夫か?」
 レシピを脳裏で確認しているのか。カナードは宙を見つめながらそう口にする。
「味が濃いものは苦手だろう?」
 その言葉にキラは素直にうなずく。
「だから、極力味付けは控えめにしよう」
「う、れしい」
 体を動かす仕事のせいか、カズキの好みは濃いめの味付けだ。当然、普段の食事もそうなってしまう。だからここで少し薄味のものを食べたくなっていたのだ。
 カナードはそんな自分の好みに気づいていたらしい。
 ほんの些細なことでもキラにとってはとてもうれしいと思える。
「では、いい子で待っておいで。ベッドから抜け出そうと思わないように」
 今用意してくるから。そう告げるカナードにキラはこくりと首を縦に振った。

「……本当にそれでいいのかい?」
 カズキが不安そうにキラに問いかけている。
「ほとんど味がないだろう?」
「味、ついてます、よ?」
 とても優しい味でおいしい、とキラが微笑む。
「父さんは味の濃いものばかり食べているせいで舌がバカになったんだよ」
 カナードはキラと一緒におかゆを食べながらこう言い返す。
「第一、父さんには別メニューで作ってやっただろう?」
 カナードはそう言うと彼をにらみつける。
「それでは不満ですか?」
「……不満じゃない」
 ため息とともにステーキに手を伸ばす。
「ただ、一人だけ仲間はずれというのもな……意外と寂しいものだよ」
 そしてステーキを一切れ口の中に放り込むように入れた。
「なら、父さんもおかゆを食べますか?」
 キラが食べられるものはそれしかないが、とカナードは問いかける。
「……それは……」
「なら文句を言わないでください」
 自分がカズキと同じものを食べればキラが一人になってしまうだろう。我慢するなら大人であるカズキではないのかとカナードは続ける。
「……僕、別に……」
 一人だけ別メニューでも、とキラが口にした。その瞬間、カズキが困ったように視線をさまよわせたことをカナードは見逃さない。
「まったく……子供に気を遣わせて、それでも父親かよ」
 本当に、とため息をつく。
「キラがおかゆしか食べられないのは誰かさんが後先考えずにやらかしたせいだし」
 ミナ様に報告かな、とカナードは続ける。
 その瞬間のカズキが浮かべた表情は実に見物だった。

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最遊釈厄伝