トリカエバヤ
13
狭いシャトルから解放されてほっとしているのは自分だけではないだろう。
「入国審査か」
そんなキラの脇でカズキがいやそうな表情を浮かべてこうつぶやく。
「……そんなにひどいのか?」
「お前達は大丈夫だ。俺には少しあたりがきついだけだな」
その言葉の意味がわからずにキラは首をかしげる。
「どう、して?」
「昔な……演習の時にやんちゃをしたんだよ」
それを覚えている連中からちくちくとやられるだけだ。カズキは苦笑とともにそう説明してくれた。
「どうせ自重しなかったんだろう」
カナードが呆れたように言葉を口にする。
「自重する理由が見つからなくてな」
そう言いながら彼は歩き出す。
「まったく……」
そんな人間をプラントに出向させるなよ、とカナードはため息をつく。
「……だい、じょうぶ?」
「こちらに矛先が向かないならな」
全部カズキに向かう、とカナードは笑う。
「そうじゃ、なくて」
なんと言えば伝わるのか、とキラは考える。
「お、父さん……いじめられない?」
「入管にか?」
カナードの言葉にキラはうなずくことで応えた。
「まぁ、大丈夫だろう。イヤミを言われて父さんが胃を痛くする程度だ」
それも自分の行動が引き起こしたことだから、責任はとらないといけないだろう。カナードはそう告げる。
「……息子がかわいくない」
肩を落としながらもカズキがそう口にした。
「育てたのが父さんだからな」
似たもの親子になるのは当然だろう。カナードがそう言い返す。
「まぁ、そうかもしれないけどな」
それでも、とカズキがため息をつく。
「もう少し他人を思いやれると思っていたんだがな」
「……カ、ナード兄さんは、優しい、よ?」
フォローするかのようにキラはカズキにそう告げる。
「それは君だからだよ」
その言葉に彼はこう言うと頭をなでてくれた。
「ともかく、いつまでもここにいるわけにいかないだろう?」
さっさと手続きを終わらせよう、とカナードが告げる。それ自体はとてもまともな意見だとキラも思う。
しかし、それに付随するあれこれが問題なわけだが。
「確かに」
仕方がない、行くか……とカズキが歩き出す。その後をキラの手を引いたカナードがついていく。
入国ゲートはすぐに見えた。そこにはなぜかずらりと検査官が並んでいる。
その姿がキラには別のものに見えた。反射的にカナードの手を振り払うとカズキに駆け寄る。そして、その腰に抱きついた。
「おと、うさん、怖い……」
顔を彼の背中に押しつけると言葉を口にする。
「キラ?」
「いや……あの人達、怖い」
そのまま嫌々するように首を横に振りながら言葉を口にした。
さすがに子供に怖がられると思っていなかったのだろう。
「……お嬢ちゃん、あのね……」
慌てたようにこう声をかけてくる。
「やっ! 怖い!!」
オーブに帰ろう、とキラは半ば泣きそうになりながら告げた。
「……あなたたちが雁首並べているからキラが怖がったじゃないですか!」
カナードがそう言っている声が聞こえる。
「この子のトラウマを刺激して楽しいですか?」
さらに言葉を重ねれば、彼らは口々に「そんなつもりはなかった」とか「カズキに遺恨はあるが、子供を怖がらせるつもりはない」とか言う。
だが、実際問題としてキラは彼らを怖いと思ってしまった。これでは入国審査も不可能なのではないか。そう思っていたら、事務所から別の人間が駆けつけたらしい。
「お前達! プラントの恥をさらすな」
「……お嬢ちゃん、大丈夫よ。お姉さんがお相手するからね」
そんな言葉を聞きながら、キラはとうとう気を失ってしまった。