トリカエバヤ

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「お父様」
 離れた場所からラクスは父に声をかける。
「お仕事は終わりまして?」
「あぁ」
 シーゲルが言葉とともにうなずいて見せた。それを見て彼女はゆっくりと近づいていく。
「すまなかったね。せっかくの旅行だったのだが」
「いいえ」
 ラクスは首を横に振って何でもないことだと告げる。
「ですが、あの方はどなたなのでしょうか」
 プラントの人間ではないだろう、と言外に問いかけた。
「オーブから派遣されてきた駐在武官殿だよ」
 移動中に見かけて声をかけたのは自分だ。シーゲルはそう付け加える。
「以前から彼のことは知っていたからね。あちらに来るならそのまま以上をしてほしいと思ったのだが……」
 そちらに関しては断れてしまったよ、とシーゲルは続けた。
「お子さんがいるから仕方がないのではないか?」
 今まで黙って聞いていたユーリがそう口にする。
「お子さんというと、あのお二人でしょうか」
 ニコルが首をかしげながら問いかけた。
「きっとそうですわ」
 可愛らしい方でしたし、とラクスは微笑む。
「言葉遣いが幼いような気がしましたが……」
 ニコルはニコルでこう告げる。
「オーブである事件があった。あの子はその被害者の一人だそうだ。言動が幼いのはそのせいですべてを忘れてしまったからだろう」
 ユーリの言葉にニコルが目を丸くした。
「そうなのですか?」
「あぁ。だからカズキくんがあの子を引き取って、なおかつプラントに移動になったのだそうだよ」
 そのままプラントに移住してきてくれればこれほど喜ばしいことはないのに、とシーゲルはつぶやく。
「仕方があるまい。彼の愛国心を崩せないのだから」
「だが、プラントも人手不足と言うことは否めまい。いずれ、あちらと決裂する可能性はある」
 そのときのことを考えておかなければいけないだろう。そう続けるシーゲルの言葉がどこか寂しげだった。

「お帰り」
 カナードがそう言って出迎えてくれる。
「キラは?」
 だが、キラの顔が見えない。何かあったのか、と思いつつ問いかけた。
「眠ってる」
 それにカナードはあっさりと言葉を返してくる。
「ほら」
 そう言いながら彼は膝を指さした。そこにはカナードの膝を枕に眠っているキラの姿がある。
「起こすなよ」
 思わずなでようとした手をカナードがつかんだ。
「いいだろうが」
 誰かさんと違って素直にかわいいと言えるのだから、とそう言い返す。
「……悪かったな」
 そう言いながらもカナードは寝返りのせいでずれてしまったキラの毛布を直してやる。
「本当。そう言うところを素直に見せていればいらぬ誤解を受けないだろうに」
「……他の誰かに優しくする気はないからな」
 キラは特別だ、とカナードはつぶやくように付け加えた。
「そうか」
 何か理由があるのだろう。それを教えてくれないのは寂しいが、とカズキは心の中だけでつぶやく。
「なら、本気で嫌われないようにするんだな」
 とりあえず、これだけ注意をする。
「わかっている」
 自覚があったのか、カナードが素直にうなずいたことには驚く。だが、相手がキラならば仕方がない。理由はわからないがなぜかそう思えた。

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最遊釈厄伝