トリカエバヤ
08
キラの目の前に二人の人物がいる。一人はギナよりも年齢が上だと思える人物だ。そして、もう一人が自分とそう年齢が変わらない相手である。
「初めまして。君の保護者を仰せつかったカズキ・パルスだ。これは息子のカナード」
柔らかな声で彼はそう告げた。
「キラ。挨拶をしなさい」
「……はじめ、まして……」
ぎゅっと隣にいるミナの腰にすがりつきながらキラは言葉を返す。
「すまぬな。この子は怖い目に遭ったばかりなのだよ」
その白いコートがダメなのだろう、とミナが告げる。
「ようやくオーブ軍の制服は大丈夫になったのだがな」
どうしてもあのバカどもを思い出してしまうらしい。ミナがそう続けた。
「話は聞いておりましたが……」
そこまでだったとは、とカズキがつぶやく。彼も以前のキラを知っているからこその反応だろう。
「……キラ」
不意にカナードが口を開く。
その瞬間、キラがびくりと体を震わせる。
「な、に?」
彼の服装が黒いからか。それとも年齢が近いからか。他の人間のような怖さは感じない。だが、にらみつけるような視線はやはり怖い。
そんなことを考えながら言葉を返す。
「お前は強いな」
カナードの口から出たのは予想外のセリフだった。
「僕……弱い、よ?」
意味がわからないと言うようにキラは首をかしげる。
「強いぞ。今は意味がわからないだろうがな」
だが、カナードもかたくなにそう口にした。それにキラは反対側に首をかしげる。
「まぁ、いい。しばらくは一緒だ。よろしく頼む」
そう言って彼は微笑む。それにミナだけではなくカズキまでもが目を瞠った。カナードが笑うという青天の霹靂を見せつけられたからだ。
「……お願い、します」
キラもぽつぽつだがそう告げる。
「さすがよ。子供同士は仲良くなるのが早い」
「カナードにそんな才能があるとは思いませんでしたが」
「我もよ」
あるいはキラ限定かもしれないが、とミナは心の中でつぶやく。
「まぁ、良い。後はあちらでのことだが」
「私が保護者でカナードはキラの兄という設定でよろしいでしょう」
「うむ。それが無難であろう」
あちらに提出する書類はこちらで用意しておく、とミナは続ける。
「それと注意が一つ」
「はい」
「キラのことだが」
そう言うとミナは声を潜めた。
やはり引き受けるのではなかった。
ギナはため息をつきながら心の中でそうつぶやく。
「私は反対です!」
目の前ではカガリがそう騒いでいる。
「なぜ、今キラをオーブから離すのですか!」
「あの子を守るためだ」
ウズミが静かな声でそう言葉を返す。
「彼の地であれば少なくともブルーコスモスの手は及ぶまい」
逆に言えば、ここでは不安だと言いたいのだろう。もっとも、それがカガリに伝わっているかと言われればどうだろうか。
「私が守ります!」
カガリはそう言いきる。
「どうやってだ?」
呆れたようにギナは問いかけた。
「一時も離れません」
「不可能よの」
そのようなことでキラを守れるのであれば、自分達がずっとそばにいて守るに決まっている。しかし、それだけでは不可能なのだ。
「不可能って……」
「良いか、カガリ。オーブだけでもセイランといったあちらに近しいもの達がおる。あれらならばキラを向こうに渡すぐらい簡単にやるぞ」
それからどうやってキラを守るというのか。不本意でがあるがあれらも五氏族の一つだぞ、と続けた。
「いくらお前でもあれらを排除することは出来ぬ」
少なくとも今は、と言葉を重ねる。
「それでもお前はアレを守れるというのか?」
この言葉にカガリは悔しそうに唇をかんだ。