トリカエバヤ

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  04  



 怖い。
 いたい。
 どうして……
 こんな思いをするなら起きたくない。
 そう思うのに、どうして体は目覚めようとするのだろうか。
 もう二度と目を覚ましたくないのに。さらにそう続ける。
「キラ」
 そのときだ。自分を呼ぶ声が聞こえた。その声はとても安心できるものだ。
 その声の主がいるなら大丈夫なのかもしれない。
 でも、とぐるぐると思考の渦に飲み込まれていく。
「目覚めぬか、キラ」
 そっと誰かの手が頬に触れる。そして優しくなでてくれた。その刺激がキラを目覚めへと誘ってくれる。
 仕方がない、と息を吐き出す。
 そして、嫌々ながら目を開いた。
 だが、そこにあったのはあの機械だらけの部屋ではない。落ち着いて清潔な場所だ。
 どこだろう。
 そう思いながら室内を見回す。
 途中でよく知っている人の姿を見かけてそのまま見つめた。
「目覚めたか」
 この人は怖くない人。それは覚えている。しかし、この人の名前はなんだっただろうか。思い出そうとしても思い出せない。
「……キラ?」
 これは自分の名前なのだろうか。
「……?」
 そう思って問いかける。
「何を……」
 言っているのか、と目の前の人物は瞬きをした。
「キラ、冗談はやめておけ」
 怖かったのはわかるが、と背後から声がする。視線を向ければ目の前の人物とそっくりな人がいた。 「おな、じ……かぉ」
 かすれてはいるがなんとか声を出すことに成功する。
「我らが双子だと言うことは知っておるだろう!」
 その人が出した大声にびくっと体をすくませた。あいつらのことを思い出したからだ。
「馬鹿者。キラのそばで大声を出すでない。おびえるだろうが。それよりも医者を呼んでこい」
 そんなキラの体をその人の目から隠すようにもう一人が抱きしめてくれる。
「そうであったな」
 その言葉にその人はかけだしていく。
「……だぁれ?」
 足音が聞こえなくなったところでこう問いかける。
「本当に覚えておらぬのだな」
 それとも混乱しているだけか、と小さな声でつぶやく。その言葉に自分が何かいけないことをしたのだとキラは理解する。
「まぁいい。後でわかることだ。だからお前は心配しなくて良い」
 そんなキラを安心させるようにその人は微笑むと言葉を綴り出す。
「私はミナ。先ほどのあれはギナ。私の双子の弟よ」
 騒がしいが悪いやつではない、とミナは続けた。
「今もお前が何も覚えていないという事実に衝撃を受けただけだ」
 それではやはり自分が悪いのだろうか。
「ただし、それはお前のせいではない」
 すべてはお前を攫った連中のなしたこと。だから、何があろうとお前は悪くはない。ミナはそう告げる。
「お前を──お前達を守り切れなかった我らへの罰なのだろうな」
 それはどういうことなのだろうか。キラが問いかけようとしたときだ。ドアの外から荒々しい足音が響いてくる。
「まったく……少しは静かにすれば良いものを」
 ため息とともにミナがドアを見つめた。つられてキラもそちらを見つめる。
 同時にドアが大きく開かれた。

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最遊釈厄伝