トリカエバヤ

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  02  



 キラの体に使われた薬は意識を奪うものだった。もっとも、幸いなことに──と言っていいのかどうかはわからないが──投与された量が少なかったために眠っているのと同じだったが。
「さて……」
 その報告を受けたミナがため息をつきながらウズミを見つめる。
「どうなさるおつもりだ?」
 このままではまた同じことが繰り返されるだろう。彼女は言外にそう告げる。
「キラとカガリの名前と種族以外のデーターを入れ替える」
 ウズミはためらうことなくそう言い切った。
「ウズミ様?」
「そうすれば、性別も何もごまかせる。ただ、種族だけはすぐにばれるからな」
 確かに、少しでも目端が利けばナチュラルとコーディネイターの区別ぐらいはつけられるだろう。
 しかし、だ。
「……カガリではすぐに性別がばれるような気がしますが?」
「それも狙いの一つと言うことだよ」
「あぁ。検査ミスを指摘しますか」
「それもかまわないが、キラとカガリのサンプルが入れ替わっていたことにすればいい」
 双子として生を受けたのだ。そのくらいはご愛敬というものだろう。彼はそう続ける。
「しかも、あの二人が生まれたのはあそこだ。あの事件でサンプルが入れ替わったと言えば十分ごまかせる」
「確かに、の」
 あの事件が関わっているとなれば入れ替わっていたとしても気づくまい。
「それが無難か」
 ミナはそう言ってうなずく。
「一応前例があるしな」
「あるのか?」
 それについては知らない、とミナはつぶやく。
「君とギナだよ。二人のデーターが逆になっていてな。ホムラ殿が引き取るときに焦って修正していたぞ」
「義父殿が……」
「幼い頃の君たちは一瞬見分けがつかないほどよく似ていたからね」
 間違えたとしてもおかしくはないが、とウズミは笑う。
「そう言う前例もある。しばらくは大丈夫だろう」
 もっとも、と彼は付け加える。
「あの二人は君たちほど似てはいないがな」
「確かに」
 幼い頃のギナは線が細かったせいもあり少女に間違えられていた。だから、そっくりだったと言っていい。しかし、今は……とミナはこっそりとため息をつく。
「似ていないように見えるのは色のせいだろうがな」
 あの二人の両親の色を彼らはそれぞれ受け継いでいる。だから、印象が変わってしまうのだろう。
 それを抜きにすれば二人はよく似ているが、とウズミは告げる。
「と言っても、二人一緒に育てるのは危ないだろうな」
「どうするのだ?」
「……どこかに預けるしかあるまい」
 一番良いのはプラントだろう。しかし、それではなかなか顔を合わせることが出来なくなる。
 と言うことで次善策としてオーブ所有のコロニーと言うことだろうか。
「我が家でもかまわぬが?」
 第三の声が響いてくる。
「義父殿?」
 いったい何を言い出すのか、とミナは視線だけ問いかけた。
「アメノミハシラであれば出入りする人間は制限できるからな。しばしの間は大丈夫であろう」
「ふむ……」
「その間にあの子を預けても大丈夫な人間を選定すればいい」
 いざとなればプラント駐在員に預けてもいいだろう。その言葉にウズミもうなずく。
「そうだな。すぐに決めることはない。まずはあの子のケアの方を優先するべきだろう」
 その間だけでも頼む、と彼は頭を下げる。
「気にするな。私もあの子はかわいいからね」
 そう言って微笑む義父をミナは思わずにらんでしまった。

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最遊釈厄伝