トリカエバヤ

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  01  



 目を開ければ、そこにあったのは知らない天井だ。
 いったい自分はどこにいるのだろうか。そう思いながら周囲を見回す。
「もう少し眠っていていいんだよ?」
 頭の上からそんな声が降ってくる。口調は優しいがその声音がそれを裏切っていた。
 何か良からぬことを考えている。
 そんな気配が伝わってきた。
 しかし、自分の体は再び眠りの淵へと落ちていく。
 いやだ。
 あらがっても意識は闇に塗り消されてしまった。

 完全に意識が落ちたのを確認して男はにやりと笑う。
「連れて行け!」
 近くにいたもの達にそう命じる。それに男達はものでも扱うような乱雑さでキラの小さな体を抱き上げた。
 そのまま彼らは部屋を出て行く。
「せっかく手に入れたパーツだ。大切に大切に扱うさ」
 本当に苦労した、と付け加える。それだからこそ手に入れた時には天に昇るほどの喜びを感じた。
「本当に何に使おう」
 コンピューターに組み込むか。それとも自分のそばに置いて研究の手伝いをさせるか。どちらがいいだろう。
「時間はこれから沢山あるんだ。じっくりと考えればいい」
 あれを取り戻そうとしても無駄だ。ここの場所を突き止めることすら出来ないだろう。
 見つかったときにはすべてが終わっている。つまり、いくら連中でもあれを解放するのは不可能だと言うことだ。
 最高傑作と言われているあれを手に入れた自分達が負けるはずがない。そう考えるだけで男の口元が緩む。
「これで……これでようやく目の上のたんこぶを消せる」
 それも貴様らの同胞の手でな。そうつぶやくと同時に男は高笑いをした。
 だが、それはすぐに警戒警報によってかき消される。
「敵襲だ!」
 そんな叫び声が聞こえてきた。
「……誰だ?」
 こうつぶやくが、聞かなくても想像がつく。あれらの親が黄道同盟とやらを動かしたのだろう。
「ともかく避難をしないとな」
 あれらは全部持って行くには時間が足りない。それでも、あれだけは持って行かなければ、ととっさに考える。
「あれらを移動させろ!」
 その思いのままこう告げた。
「無理です! 連中は真っ先にあれらを確保しに動きました」
 すでに確保されている、と部下の一人がそう告げる。
「……あれらの生殖細胞は確保してあるな?」
「最後の一人を除いては……」
 彼は申し訳なさそうに言葉を返す。
「馬鹿者! あれが最優先なのだぞ」
 他のものは換えがある。しかし、最後の一人はそうはいかないのだ。あれと同じレベルのものが今後見つかるとも思えない。
「逃げなければ、危険です!」
 他の部下はそう告げる。
「あれにはマーキングがすんでいます。次の機会を待ちましょう」
 それは詭弁かもしれない。しかし、自分が死んでしまえば研究も何も出来なくなる。
「仕方がない。今までの資料とサンプルだけは忘れるな!」
 それさえあれば後でなんとでもなる、と続けた。
「了解しました」
 言葉を返す彼らを尻目に男は行動を開始する。しかし、男の動きに焦りは見えなかった。

「……もぬけの殻か」
 一足遅かったか、と彼は悔しげにつぶやく。
「まぁ、攫われた子供らは無事だったんだし……それだけでも良かったと言うべきだろう」
 そんな彼の背中に向けてそう告げる。
「わかっておる。だが、このままではまた同じことが起きるぞ」
 あれらは決して諦めまい。今回目をつけられたもの達はまた捕まるのではないか。彼はため息とともにそう続ける。
 さすがに上に立つ者としての自覚が出てきたか。そう思った。
「他のものはともかく、あの子がまた狙われるのは困る」
 しかし、彼は彼だった。自分の大切な存在以外どうでもいいと言い切る。
「いったいどうすればあの子達を守れるか……」
「一人で考えてもいいことはないぞ」
 最後はドツボにはまって破滅的思考になる。そう続けた。
「そうか?」
「そう言うもんだって」
 だから皆と相談すればいい。その方が絶対的にいい考えが浮かぶだろう。
「……そうかもしれぬ」
「あいつにどんな薬を使われたのかも確認しなきゃないしな」
「それはすぐにでもしなければ!」
「だろう? だから、戻るぞ」
「致し方あるまい」
 そんな会話を交わすと彼らはこの場を後にする。
「ここの検証が終わり次第、徹底的に破壊せよ」
 彼の言葉に部下達は動き出した。

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最遊釈厄伝