天秤の右腕
64
約束通りの日程でアスランがやってくる。手には完成したハロがあった。ただし、まだプログラムを入れていないので動かないが。
「とりあえず基本はラクスのハロをまねさせてもらったんだけど」
そう言いながらキラはモニターにプログラムを表示させる。
「いいんじゃないか? 後は動かしてみないとわからないな」
「……じゃ、入れてみる」
そう言うとキラはアスランの手からハロを受け取る。しかし、まだOSをインストールはしない。線をつないで外部から動かすことにした。
【ハロハロー】
目に当たる部分に仕込まれたLEDを点滅させながらハロが機動をする。
「君は誰?」
「I'm Haro」
即座にハロが言葉を返してきた。どうやら破綻はしていないらしい。
「君のマスターは誰?」
「Miia・Campbell」
次の質問にもハロはしっかりと答えを返す。
「大丈夫なようだな」
アスランもこう言ってうなずいた。
「とりあえずインストールしてみろ。それで不具合がでなければ後は様子見だな」
「わかった」
うなずくとキラはハロへとプログラムを転送する。
「これでしばらくは手持ちぶさたになるな」
それを見てアスランがこうつぶやく。
「お茶にでもする?」
キラの問いかけにアスランも「それもいいかもな」と口にした。
「ちょっと待ってて」
そう言うとキラは車いすの向きを変える。そのまま部屋の反対側へと移動した。
「キラ?」
「お湯を沸かすだけだよ」
他のものは用意してもらったから、と言葉を返す。
「なら、俺がやるから」
腰を浮かせながらアスランが言った。
「心配性だね、アスランは」
それにキラは苦笑を浮かべる。
「自分でできることは自分でやらないと何もできなくなるしね」
足が動かないと言っても車いすもあるし、とキラは付け加えた。
「あぁ、そうだな」
確かに、とアスランもうなずいている。そんな彼にほほえみかけながらポットのそばまで移動した。中にはすでに水が入れられている。それを確認してからお湯を沸かそうとしたときだ。
「ほぉ。来ておったか」
いきなりドアが開いたかと思えばギナが踏み込んできた。
「ギナ様……せめて声をかけてください」
キラがそう言えば彼は笑みを浮かべる。
「あれらが無条件降伏をしたぞ」
そしてこう口にした。
「無条件降伏?」
「そうよ。まぁ、あやつらに残されたつてがあれではわかりきった結末ではあったが」
予想よりも早かったの、とギナが続ける。
「デュランダルに話をしておいたから今頃は評議会とやらにも内密に話が行っておるであろう」
それを受け入れるかどうかはあちらの決断次第だ。ギナはそう続ける。
「まぁ、大丈夫であろうな」
地球軍とすれば虎の子は取り上げられ、優秀だった技術者は逃げ出した状態だ。これ以上どうすることもできまい。そう言ってギナが笑う。
「そうですか」
それ以外どう言えというのだろうか。
「良かったんじゃないか?」
アスランはあっさりとそう言う。
「無駄な戦いが避けられたからな」
「そう言われてみればそうだね」
彼の言葉にキラはしっかりとうなずく。
「それに久々にオーブに戻れるかもしれぬぞ」
キラの頭をなでなからギナがそう言ってくる。
「本当ですか?」
だとするならばうれしい。キラはそう言うと笑みを作った。