天秤の右腕
63
アスランは久々にものづくりをしていた。作っているのはペットロボットだ。
「まさかラクスがねだってくるとは思わなかったな」
とりあえず一番気を遣う部分が終わったところで、いったん道具を置く。
「前に一度作っているから本体は問題ないが……問題は言語系統だよな」
なぜ、言語系統を変えなければいけないのか。それが微妙に気になる。色を変えるだけでもいいのではないかと思うのは自分だけだろうか、とアスランは悩む。
「ミーアに持たせるからと言っていたが……」
機能面では納得できるのだが、とため息をつく。
「まぁ、いい。ラクスの希望だし、責任もラクスにとってもらえばいいだろう」
変な言葉を使っても、とつぶやいた。
そのときだ。
すぐそばに置いておいた端末が着信を告げる。慌てて引っ張り出そうとして積んで置いた資料が雪崩を起こしたのは内緒だ。
「アスラン・ザラです」
室内の参上には気づかれないように気をつけながら通話に出る。
『アスラン? 何か隠しているでしょう?』
幸いなことに、と言っていいのか。連絡を入れてきたのはキラだった。
「……隠しているというか……端末をとろうとして書類が崩れただけだ」
隠してもばれているなら仕方がない。そう思ってアスランは素直に口にする。
『また資料を積んでいたんだ』
昔と変わらないね、とキラは笑う。
「それで……何かあったのか?」
連絡をしれ来たというのは、とアスランは話題を変えようとする。
『ギナ様がまたいらしてね。ブルーコスモスが何かをしでかすかもしれないから警戒をしてくれと伝えてくれって』
アスランからパトリックに告げて欲しい。キラはそう言う。
確かに最後の嫌がらせぐらいはしてくる可能性は否定できない。アスランはそう判断するとうなずく。
『それと……アスランが今作っているハロの言語系だけど』
「ラクスから聞いたのか?」
『うん。こちらでプログラミングしてもいいかな?』
ラクスのハロからデーターをもらってあるから作ることは可能だ。キラはそう続ける。
「……そうだな。そうしてもらえればありがたい」
作ることは苦ではないが、問題はどの言語を選ぶかだ。今、プラントで使われているのは共通語だし、と心の中で付け加える。それよりも地球で暮らした経験のあるキラの方がそう言うことに詳しいだろう。
『なら、こちらに来ない? ギナ様も会いたいって言っていたし』
「わかった。明日は無理だから、あさってでもお邪魔させてもらおう」
アスランがそう言えばモニターの中でキラが微笑む。
『待ってるね』
そう言われてアスランも笑みを浮かべる。
「それまでに終わらせる」
頑張って、と続けた。
『無理だけはしないでね』
「わかっている」
キラの言葉にアスランはしっかりとうなずく。
「万が一の時に戦えなくては意味がないからな」
ブルーコスモスが最後に何をしでかしてくれるか。それがわからない以上、最悪のパターンに則って用意を調えるべきだろう。そう続ける。
でなければ、悲劇は繰り返されかねない。
『そうだね』
キラはそう言ってうなずく。
『これ以上邪魔すると悪いから、また後で』
「あぁ。お前も無理はするなよ?」
『させてもらえないから』
レイが、と彼は苦笑とともに続けた。
「当然だろう?」
こんな会話を交わした後で通話を終わらせる。
「さて、あと一息だな」
そうつぶやくとアスランはまた作りかけのハロへと意識を戻した。