天秤の右腕

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  56  



 無事に機体を奪取してヘリオポリスの外へと飛び出す。
「こいつら……無駄なことを」
 追いかけてきた地球軍の機動兵器が鬱陶しい。そう思いながらアスランはつぶやく。
 そのときだ。
『こちらは任せて、お前達はまっすぐ行け!』
 オロールからの通信が飛び込んできた。
『そうだな。そんなへろへろな急ごしらえのOSで戦闘なんかできねぇだろう?』
 さらにミゲルが追い打ちをかけてくれる。
 だが、落ち着いて考えてみれば当然のことだと思い当たった。
「……わかった」
 確かにこのままでは足手まといになりかねない、とため息をつく。
『仕方がないよな。ここはおとなしき引き下がるか』
 下手に機体に傷をつけても仕方がないだろう。そう言われてアスランは納得する。
「そうだな」
 今は無理をしない方がいい。そう判断をすると機体をヴェサリウスへと向ける。
「戻ろう」
 そのままこの場を離脱しようとした。
 だが、その先をふさぐように地球軍のミストラルが出てくる。
「邪魔な!」
 アスランは反射的にビームライフルを向けようとした。だが、この機体にはビームライフルは装備されていない。
「しまった!」
 相手の方は自分に照準を向けてくる。
 どうするか。
 そう考えた瞬間、ミストラルが爆発した。
『アスラン、悪い。一機見逃した!』
『反応はよかったが、自分の装備はしっかりと確認しておけ』
『優等生だなぁ、お前は』
 同時にからかうような声が耳に届く。
「悪かったな!」
 ジンならば後れをとることはなかった。地球軍の機体の装備があれこれ足りないのが悪い。
 そう思うが反論する時間はないだろう。
 代わりに機体の向きを変えるとヴェサリウスへ向けて移動を開始する。
『落ち込むなよ』
 後を追いかけてきたラスティがそう声をかけてきた。
「わかっている。俺たちはまず、これを実戦に耐えうるようにしないといけないだろうな」
 もっとも、自分達が使うことになるかどうかはわからない。すべては上層部が決めることだ。
 だからといって手を抜いていいわけではない。
 今の自分にどれだけのことができるか。それを確認するためにもやっておくべきだろう。
「こういうことはキラの方が得意なんだろうが……」
 プログラミングに関してはどうしてもキラに勝てなかった。いや、きっと、今でも勝てないだろう。
 それでも彼にMSのOSに関わらせたくない。
 それは間違いなくキラを傷つける結果になるだろう。だから、決してそうさせるわけにはいかないのだ。
 戦争に勝つことよりも個人を優先させる。
 他人から見ればあきれられるかもしれない。しかし、アスランにとって優先すべきなのはそれなのだから仕方がないだろう。
 そう考えたときだ。いきなりエラー音が鳴り響く。
 反射的にエラーの原因を確認する。どうやら武装系らしい。ならば移動には関係ないだろう。
「とんだじゃじゃ馬だ」
 小さなため息と共にアスランはそうつぶやく。
「ラクスの相手の方が……いや、そちらの方が大変か」
 彼女本人は付き合いやすい方だ。しかし、そのファンは別だ。なぜ、自分があれこれ言われなければいけないのか。そう感じたことは一度や二度ではない。
「キラは大丈夫か?」
 ラクスと親しくしていると知られれば彼女の過激なファンに何をされるかわからない。しかも、キラは足が悪い。何かが起きてもすぐに逃げられないのだ。
 もちろん、ギナやギルバート達がそばにいることはわかっている。
 しかし、四六時中そばに付いていられるわけではない。
「本当に厄介だな」
 キラの交友関係が広がって生野うれしいことだ。しかし、それに伴う『嫉妬』などの感情を向けられると面倒だとしか言い様がない。
「それについても対処をとらないとな」
 だが、その前に無事にヴェサリウスに戻らなければいけないだろう。そう考えるとアスランは操縦に集中することにした。

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最遊釈厄伝