天秤の右腕

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  55  



 ハッチから内部へと侵入を果たす。ここからは別々のルートで目的地に進む。
 手のサインでお互いの無事を祈った。
 そのまま左右に分かれて進んでいく。
「……意外だな」
 不意にラスティがヘルメットをくっつけてきた。そう思った次の瞬間、彼はこう口にする。
「何がだ?」
 アスランは添えでも声を潜めながら聞き返す。
「センサーが一つもない」
 そう言われてみれば確かにそうだ。秘密工場がこの先にある以上、警戒をして当然だと思うのだが、とアスランもうなずく。
 だが、とすぐに思い直す。
「ここはまだオーブの管理下にあるからだろう。下手にセンサーをつければあちらに存在がばれる」
 あるいはここから侵入してくる人間はいないと思っているのか。どちらにしろ油断していることは間違いない。
「なるほど」
 それならば納得、と彼もうなずく。
「ともかく進むしかないだろうな」
 時間がない、とアスランは口にする。
「あぁ」
 ラスティはうなずくと慎重に進んでいく。今はセンサーがなくてもこれからもそうだとは言いがたい。彼もそう考えているようだ。
 やがて二人は目的地へと思われる場所に到着をする。
 混乱をしていることから、ラスティ達が到着しているか、ニコル達が成功したかのどちらかだろう。
 それならばそれでいい。
 敵が混乱しているのであればこちらも好都合だ。
「俺は右の機体を奪取する」
「了解。ならば、俺は左だな」
 確認し合ったところで即座に行動に出る。多少あらがあったとしても、こういうことはそうそうに行動に移す方がいいだろうと考えてのことだ。
 二人は顔を見合わせてうなずき合う。腰につけたホルダーから銃を抜くとそのまま下に飛び降りた。

 久々にラクスから連絡があった。
「どうしたの?」
 今、ツアー中でしょう? と首をかしげる。だから、連絡を取るのを我慢していたのに、と続けた。
『今日は時間がありますの。よかったら付き合ってくださいませ』
「それはかまわない……と言うよりうれしいけど……疲れてない?」
 顔色が今ひとつ悪いような気がする、とキラは付け加える。
『あら。キラは気づいてくれますのね』
 ラクスは目を丸くしながらこう言った。
『今日行った基地の方はさらに無茶ぶりをしてくれましたのに』
 食事に付き合えとか、と怒ったような声音で付け加える。
「それは大変だったね」
 いったいどんな人間がそんなことをするのだろうか。そう思いながらもキラは言葉を返す。
「ラクスは歌うのが仕事で、それ以外は好意なのにね」
 ファンサービスもあるのだろうけど、とさらに付け加える。
『わたくしと親しいと言うことが一種のステータスになっているみたいですわ』
 延々と連れ回してくれた。マネージャーが止めてくれなければ、まだ付き合わされていただろう。ラクスはため息交じりにそう続ける。
「それならば、余計に休んでいなくていいの?」
『キラと話をしている方が落ち着くのですわ』
 押しかけても来ませんし、と彼女は微笑む。
「それって、ストーカー……」
 信じられない、とキラはつぶやく。
『ですわよね。困った方です』
 ため息と共にラクスもうなずいて見せた。
『代わりにすてきな方と知り合えましたけど』
「そうなの?」
『えぇ。近いうちにキラにもご紹介しますわ』
 きっとキラも驚くだろう。ラクスはそう言って微笑む。
「僕の知っている人?」
『内緒ですわ』
 ふふふ、とラクスは笑いを漏らす。
「……残念」
 そんな彼女に、キラは大げさなくらい肩をすくめて見せた。

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最遊釈厄伝