天秤の右腕

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「豪儀なものよ」
 パイロットスーツのみで宇宙空間に飛び出していくもの達を見ながらギナはそうつぶやく。
「全員が《紅》ならばそれも納得だがな」
 彼らは自分達の技量に自信を持っているから、とギナは付け加えた。
「しかし、無謀と言えば無謀よな。目に見えるものばかりではないと言うに」
 それでも実行に移すところは好意に値するが、と彼は笑った。
「では、我も準備だけはしておくか」
 そう付け加えるとそのままギナはヘリオポリスへと着陸する。そのタイミングは彼らの動きを気取られないためにも有効的だった。

「そろそろ刻限かの」
 ミナが不意にそうつぶやく。
「何が、だ?」
 意味ありげな言葉にムウはそう問いかける。
「地球軍の破滅への序曲が、だよ」
「はぁ?」
 そんなもの、すでに始まっているだろう……とムウは言い返す。
 なんだかんだ言って地球軍から人材が流出しているらしい。それも、現場の人間ではなく技術職が、だ。
 いくら兵士が頑張っても機体を整備してくれるもの達がいなければ仕える機体がなくなっていく。
 そうなればいくら新しい機体を作っても戦争の継続は無理だ。
 いくらバカでもそのくらいはわかったらしい。今になって上部が慌てて整備陣を引き留めているという。
「何を考えているんだか。全部後手に回っているだろうが」
 あきれたようにムウはつぶやく。
「いくら積まれてもあいつらが逃げ出すのは止められない」
 下手をしたら、一人もいなくなるのではないか。そう彼は続けた。
「上層部が考えを改めれば話は別だが……難しいだろうな」
 連中にとって人間とは一番手近にいて使い勝手のいい《道具》だ。その考えを改めと言っても無駄だろう。
「確かにの。どのような人物でも、自分の人生を生きておるというのに」
 それを認めぬ人間はただのバカよ、とミナもうなずく。
「だろう? だから、今のままなら地球軍は遠からず瓦解する。つまり、この戦争を続けられなくなるってことだ」
 どうあがいてもこのラストは変えられないだろう。つまり、破滅への序曲どころか本番ではないか。
 ムウはそう言うとミナを見つめる。
「なのに、わざわざそう言うとは、何かあるのか?」
 そのまま真顔でこう問いかけた。
「お前は聡いの。本当にどこぞのバカに分けてやって欲しいくらいだ」
 からかうような口調でミナが言う。
「それでごまかされると考えているのか?」
 目をすがめながらムウはさらに言葉を重ねる。
「別にそう思ってはおらぬ」
 ミナは笑みを深めると言葉を返してきた。
「じゃぁ、何なんだ?」
 さっさと言え、と心の中だけで付け加える。もちろん、相手がそれを読むだろうことは予想していた。
「ラウの部隊が地球軍の新型を奪取するそうだ」
「へぇ。確かに破滅するだろうな」
「だろう。しかも、目的地はヘリオポリスよ。秘密工場を作ってくれていたらしいからの」
 その事実を日の目にさらさなければならぬ、とミナは言い切る。
「……それで?」
「秘密工場に侵入して新型を奪取する。万が一に備えてギナが待機しておる」
 大々的にばらして地球軍に抗議をさせてもらおう、とミナが笑う。
「……お前達がその気ならばかまわないが」
 深いため息と共にムウは言葉を返す。
「不満があるのか?」
 ミナが目を細めながら問いかけてくる。
「不満というか……どこに目的を置くかのちがいだな」
「ほう。参考までに聞いておこう」
「秘密工場はさておき、俺ならば連中が宇宙に出てから確保する。その方がヘリオポリスの住民を危険にさらさない」
 きっぱりと言い切った。
「……地球軍がMSで反撃してくる可能性は?」
「ないな。あいつら、あれを歩かせるだけで精一杯なはずだ。戦闘なんてとてもできやしない」
 ムウの言葉を耳にした瞬間、ミナは微妙な表情を作る。
「どうした?」
「……我々は『パイロットは機体を十分に扱えるはず』と言う前提にとらわれすぎていたのかもしれぬ」
 確かにその方が簡単だろう。そう付け加えると、ミナは深いため息をついた。

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最遊釈厄伝