天秤の右腕
53
作戦開始まであと少しだ。
あぁは言い切ったものの、現実としてできるかどうか。それを考えると少し不安になる。
だが、とアスランが考えたときだ。
「大丈夫か、アスラン」
ラスティがこう問いかけてくる。
「そう言うお前の方こそどうなんだ?」
緊張していないか、とアスランが聞き返す。
「緊張はしているさ。でも、任務に支障が出るほどじゃない」
ラスティはそう言って笑う。
「そうか。なら、大丈夫そうだな」
もっとも、何事にも《絶対》と言うことはない。だから気を引き締めていかなければいけないのだが。アスランは心の中でつぶやく。
「俺たちが奪取する機体はあいつらとは別の場所に保管されているらしいからな」
自分達だけ別行動になる、と告げる。
「そうか。やりやすいのか何なのか、微妙だな」
しかし、と彼は言葉を重ねた。
「ミゲル達の誤射だけは気をつけないと」
「確かにな」
そう言って小さく笑い合う。
「最善を尽くせばいい。そうすれば結果は着いてくるはずだ」
「わかっているって」
そう言うとラスティは立ち上がる。
「時間だぜ」
「あぁ」
行くか。そうつぶやくとヘルメットをかぶった。そのままハッチへと向かう。
そこにはもう、ディアッカ達が待っていた。
「ぎりぎりだな」
イザークがあきれたような視線を向けてくる。それも何時ものことだ。
「すまない。最終確認をしていた」
アスランがそう言い返す。
「まったく……」
そういうことはもっと早くにやれ、と彼は口にする。
「時間通りですから、かまわないのでは?」
「そうそう。遅れたわけじゃなし」
ニコルとラスティが口々にアスランをフォローするような言葉を口にした。
「確かに。作戦開始には間に合ったな」
今ひとつ納得していない表情でイザークは告げる。
「だろう? だから、そこまでにしておけって」
ディアッカもこう言う。
「ここで失敗をすればキラが悲しむからな」
アスランがこうつぶやいたときだ。他の四人は目を丸くする。だが、すぐにうなずいて見せた。
「あいつはオーブ出身だったな。知り合いがいる可能性もある」
「あぁ。だからこそ、可及的速やかに事を終わらせなければいけない」
ここで争っている暇はないだろう。
「確かにな」
そろそろ作戦開始の時間だろうしな、とイザークもうなずく。
「時間を無駄にしたか?」
「そうでもないだろう。意思の統一という点で必要だったと考えるが」
「なるほど。確かにきちんとすりあわせをしておかないとな」
アスランの問いかけにディアッカとラスティが言葉を返してきた。
「では、行くぞ」
そう告げると共にアスラン達はハッチへと向かう。
「ここからはパイロットスーツだけで宇宙遊泳か……」
「怖いのですか?」
「まさか」
ニコルとラスティがこんな会話を交わしている。
「訓練の時を思い出しただけだ」
あちらの方が怖かった、とラスティは素直に口にした。
「確かにそうですね」
ニコルも否定はしない。
「隊長の鬼、と何度つぶやいたことか」
そう付け加えられたセリフに、誰もが微笑む。同時に緊張が和らいだような気がした。