天秤の右腕
52
「さて」
そう言いながらラウは周囲に視線を巡らす。
「明日には作戦開始だが、心構えは大丈夫か?」
最終確認とばかりにそう問いかける。もちろん、この場で『否』と言い出すものはいない。
「いないようだな。それならばかまわない」
かすかな笑みいと共に彼はそう告げる。
「では、突入班はアスラン、イザーク、ディアッカ、ニコル、ラスティの五人だ」
センサーに引っかからないよう、ノーマルスーツで宇宙遊泳をしてもらおう。ラウのこの言葉に彼らは息を呑む。それがどういう意味か彼らにもわかったようだ。
「無理だと思うなら今からでも拒否してかまわないが?」
だが、それでもやると言うかのように彼らは見つめてくる。
「ふむ。いい心構えだ」
かすかに唇の端を持ち上げるとラウはそう言う。
「ミゲル達は以前話したとおり陽動だ」
「了解しました。派手に突入して目標を攻撃します」
「それでいい。ただし、フレンドリーファイヤーには気をつけるように」
味方を撃つことほどばかばかしい行為はないからね、、と話を続ける。
「……そこまで信用がありませんか?」
ミゲルが少しむっとした口調で問いかけてきた。
「君は信用しているよ。しかし、万が一という可能性は否定できないだろう?」
奪取後にもたもたしているとか、と笑いながら付け加える。そこを狙撃されれば意味はないだろうとも続けた。
「……確かに、そっちの可能性はありますね」
もたもたしているとこちらとしてもやりにくい、とミゲルもうなずく。
「確かになぁ」
「のろのろやっているうちに攻撃が行くかもな」
「十分以内で終わらせてもらわないと」
オロールやマシューと言ったジンのパイロット達もそれに同意をする。
「そこまで無能ではないつもりだが?」
イザークが目を細めながらそう言い返した。
「なら、行動で証明して見せろ」
即座にミゲルがあおるように告げる。
「……やってやろうじゃないか」
それにあっさりと乗ったのはディアッカだ。
「個人的にあっさりと乗せられるのは気に入りませんが、愚鈍だと判定されるのもいやですしね」
さらにニコルまでが反論をしてきた。
「真価を疑われるのは不本意だな」
さらにラスティがうなずく。
「やらなければならないのでしたら完遂します。それだけです」
アスランは感情を含ませない声で淡々と告げる。だが、それだからこその自信が感じられた。
「そうか」
では、それを見せてもらおう。ラウはそう告げる。
「ミゲル達もかまわないね?」
視線を向けるとそう問いかけた。
「もちろんです」
即座に彼はうなずいてみせる。
「では、作戦開始時間までそれぞれで準備をするように。あぁ、休憩も適時取っておきなさい」
ラウはそう言い残すと体の向きを変えた。この後のことはミゲルに任せておけばいい。
視線を向ければ、彼は小さくうなずいてみせる。
それを確認してから、ラウはその場を離れた。
「さて」
背後でドアが閉まったのを確認して彼は口を開く。
「ギナ様はヘリオポリスに着いただろうか」
それによって万が一の可能性が上がるのだが、と彼はそう続ける。
万が一にでもヘリオポリスに何かあれば住人は避難しなければいけない。
それでも何の警告もなく命を奪われたユニウスセブンの住人達よりはマシだろうか。ふっとそんなことも考えてしまう。
しかし、それと自分達が加害者になるのとは別だ。
そう考える自分は偽善者なのだろう。身内以外はどうなろうとかまわないと考えていることも否定しない。
「キラとレイが幸せならばそれでかまわない。あぁ、ギルバートとミナ様とギナ様、それにカガリもだね」
後は自力で幸せをつかめばいい。そうつぶやくと彼は床を蹴った。