天秤の右腕
51
さて、この後はどうしようか。
キラは目の前のモニターを見つめながら考える。
「素直にプロテクトをかけるか……逆に攻撃的にするか。どちらがいいかな」
それとも、と彼は続けた。
「いっそ、どちらも作って選んでもらおうかな」
さほど手間ではないし、とつぶやく。
「うん。そうしよう」
どちらを作るかで悩むよりはそちらの方が建設的だろう。そうつぶやくと早速キーボードを叩こうとする。
「キラさん」
そこにレイが顔を出す。
「何?」
「お茶にしましょう」
そう言いながら彼はキラのそばまで歩み寄ってきた。
「そんな時間なんだ」
「えぇ。ですから、今は仕事の手を止めて俺とお茶をしてください」
言葉と共にレイはきれいな顔で微笑む。ラウに似たその顔に弱いとばれているのだろう。
「……そうだね。一度頭をリセットしたいし」
ため息交じりにそう告げると車いすの向きを変える。
「押しましょうか?」
「いいよ。ある程度は自分でやらないと」
自分では何もできなくなる。とキラは言い返す。
「そうですか」
少しだけ残念そうな表情で彼はつぶやく。だが、すぐに表情を和らげる。
「僕としては残念ですが、キラさんが決めたことなら仕方ないですね」
キラのお世話をすることが減るが、と彼は付け加えた。
「でも、君がいてくれるから安心して仕事をしていられるよ」
本当はいけないのだろうが、とキラは言い返す。
「そうですか?」
「そうだよ。今だって、こうして迎えに来てくれるし」
迎えに来てくれなければ食事すら忘れかねないし、とキラは小声で付け加える。
「キラさん!」
「あまりおなかがすかないし……仕事の方を進めたいから」
キラがつぶやくようにそう告げれば、レイはため息を付いた。
「わかりました」
そしてさらに言葉を重ねる。
「やはりキラさんには監視が必要だと。当面、その役目は俺がします」
「……それって」
「多少強引でも許してくださいね」
にっこりと微笑んでいるのに真顔だと言う器用な表情でレイはそう告げた。
「別に、そこまでしてもらわなくても……」
大丈夫じゃないかな、とキラは口にする。
「ダメですよ。食事は大切ですから」
そう言うレイの表情が怖かった。
ムウがため息と共にソファーに腰を下ろす。
「俺のせいじゃないけど、迷惑をかけたのは事実だからな」
そのまま彼がこう言った。
「まぁ、お前が連れてきた連中は優秀らしいからな」
一人を除いて、とミナは言い返す。
「誰だ?」
自分が知っているか義理マードックの部下な全員優秀な整備員だが、とムウは言い返す。
「女性士官が同行していたそうだが?」
「いや、知らねぇよ」
マードックの部下は全員男だったはずだが、とムウは首をかしげる。
「そうか……」
では、彼らの独断か……とミナはつぶやく。
「それにしても、危険な橋を渡ったものだ」
技術士官を同行させるとは、と彼女は笑った。そのセリフにムウが表情をこわばらせる。
「その士官というのは、まさか……」
「ラミアスと言ったか?」
「やっぱりかよ」
マードック、と彼はつぶやく。
「知り合いだが、同行していることに気づかなかった、と言うところか。注意が足りんな」
あきれたようにミナは言う。
「……すまん」
素直に頭を下げるムウに、ミナはため息を一つ付いた。