天秤の右腕

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 二人の話し合いはすぐに終わった。
「では、お願いします」
「わかっておる。我としてもヘリオポリスの住民は守らなければならぬからの」
 ギルバートの言葉にギナはうなずく。
「悪いが、荷物は置いていくぞ」
「キラのためにもそれがよろしいでしょう」
 ちょっと出かけているだけだ、と言ういいわけができる。ギルバートはそう告げる。
「そういうことにしておけ」
 時間がないから行く、とギナはきびすを返す。
「キラには何も言わずに行くのですか?」
「……そう時間をかけるつもりはない故、かまわないであろう」
 ミナから呼び出したあったとでも言っておけばいい。ギナはそう続ける。
「あの子はそれで緊急事態だと判断してくれよう」
 詳しい話はしなくていい。そう付け加えた。
「了解しました」
 お気をつけて、とギルバートは返してくる。
「我よりもあれらの方を気にかけてやれ」
 そう言い残すとギナは足早にそこを後にした。

「お忙しい方だ」
 ギナの後ろ姿を見送りながらギルバートはそうつぶやく。
「しかし、今回は仕方がないだろうね」
 ラウからの依頼が原因だ。それもヘリオポリスの住民を守るためである以上、文句は言えない。
 同時に、自分はこの国の住民を守る義務がある。
「それにしてもラウもよく気がついたね」
 自分なら気づかないだろう。あるいは、気づいても大丈夫だと考えるか。
 そう言うところが彼らしいと言えば彼らしいのかもしれない。
 いや、と思い直す。
 その話を聞いたときキラが悲しむと考えたのであれば納得できる。
 隠そうとしてもいずれはばれるのだ。それならば最初からそのような事態が起きないようにするしかない。つまりはそういうことだろう。
「私もまだまだ甘いか」
 いろいろな点で、とギルバートはつぶやく。
 大切なものを守るためにはどのようなことをすればいいのか。それが理解できていなかった。そうも続ける。
「本当にいろいろと学ぶことが多いよ」
 もっとも、それもキラが来てからだ。レイだけでは気づかなかったことも多い。それはキラとレイの立ち位置に関係しているのだろう。
「子育てなんてと思っていたが、予想以上に自分が未熟だと思い知らされるよ」
 そうつぶやくとギルバートは再び端末を開く。
「さて……私は私にできることをしようか」
 キラかレイが来るまでだが、と口にしながら彼はキーボードを叩き始めた。

 小さなため息と共にレイは顔を上げる。
「そろそろキラさんに休憩を取らせないと……」
 時計を見てそうつぶやく。
「でも、最近のキラさんはあまり食べてくれないんだよね」
 ラウが出撃してから、とレイは口にする。
「そんなに心配なのかな」
 自分達にとっては日常だ。しかし、キラにとっては初めての経験である。そう考えれば納得できるのかもしれない。
「キラさんの心配がなくなるわけじゃないが……兎も角お茶に誘っておこう」
 後は何か気晴らしをしてもらって、とつぶやきながら立ち上がる。
「ともかく今日のおやつですね」
 できるだけ栄養価の高いものを用意しよう。それならな半分だけでもそれなりのカロリーがとれる。
 もちろん、全部食べてくれるのが一番なのだが。
 料理長ならばそのあたりも考えてくれるだろう。
「さて。キラさんを呼びに行くか」
 レイはそう口にすると立ち上がる。そして、まっすぐにキラの部屋へと向かった。

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最遊釈厄伝