天秤の右腕
46
「急だが、作戦の説明をする」
いきなりパイロット達が集められたかと思えば、ラウがこう切り出す。
「作戦、ですか?」
今回はただのパトロールではなかったのか。言外にイザークがこう聞き返した。
「地球軍の極秘作戦をキャッチしたのでね」
そう告げれば、彼らの表情が引き締まる。
「極秘作戦ですか?」
ミゲルがかすかに顔をしかめながら問いかけた。
「我々にとってみれば最大の脅威となりかねないものだよ」
「と、言いますと?」
いくつか可能性は考えられるが、とミゲルはさらに問いかけの言葉を口にする。
「MSの開発」
ラウは端的に一言そう告げた。
「まさか地球軍が?」
「いや、あり得ない話ではないぞ。機体だけならばジンを解析すれば開発は可能だ」
実際、地球軍は機体は完成させたようだからね……とラウは続ける。
「機体は、ですか?」
アスランが何かに気がついたのだろう。こう問いかけてきた。
「OSはまだ未完成に近いそうだ」
そう告げればアスランの表情がこわばる。
「だから、キラを狙ったのか?」
彼はその表情のままこうつぶやく。それにディアッカが即座に反応を見せた。
「あいつにそれのOSを作らせようとしやがったのかよ」
「おそらくは」
アスランがそう言ってうなずく。
「……何を考えているんだ、地球軍の連中は」
被害者に協力させるなんて、とディアッカは怒りを隠せないようだ。
「まったくですね」
ニコルもそう言ってうなずく。
「それで、隊長。それはどこにあるんですか?」
イザークがそんなもの達を横目に問いかけてくる。
「ヘリオポリスだよ」
地球軍が秘密工場を作ったらしい。そう続ければラスティもまた視線を向けてきた。
「それは厄介ですね……あちらは民間人を人質に取れるというわけですか」
最悪、オーブとの国交が断絶するのではないか。その言葉に他のもの達がぎょっとした表情になる。
「……人質を取られるとまずいか」
「しかし、人数はこちらの方が少ないぞ」
正面からぶつかっては負けるぞ、とミゲルが口にした。
「敵の機体を奪取するとなればなおさらだ」
奪取する人間が危険にさらされる、と彼は顔をしかめる。
「君たちならば大丈夫だと思うがね」
ラウはそう言って微笑む。
「難しいとすれば、民間人への被害を最小限に抑えることかな?」
「……あちらに協力をしたもの達ですよ?」
即座にイザークが口を挟んでくる。
「そうとも言えないよ。彼らの多くは工場とは関係ない職に就いている人達だからね」
知っているとしても一握りのものだろう。ラウはそう続ける。
「どうしてそう言いきれるのですか?」
ラスティが問いかけてくる。
「プラント一つにどれだけの人数がいるか、知っているかな?」
逆にこう聞き返す。
「……あっ」
「そういうことか」
このヒントだけでアスランとニコルは気づいたらしい。
「さすがに何万もの人を共犯にするのは無理ですよね。子供いればなおさらです」
「むしろそういうことは少数の人間だけで情報を握っていた方がいいのでは」
「正解。そういうことだから、民間人の大半は知らないと考えていい」
それに、とラウは笑みを深める。
「何よりもギナ様からのお願いだからね。聞かないわけにはいかないだろう?」
それだけで他のものも納得するとは思わなかった。彼はいったいどれだけ恐れられているのか、とあきれたくなる。
ラウにしてみれば、多少面倒だがキラには優しい存在という認識なのだ。今回のこともアスランを鍛えるつもりなのだろうという予感がある。
そうでなかったとしても、キラを守れる程度には鍛えあげるつもりだが。
「さて……それでは作戦を説明する」
今はそれを口にしなくてもいいだろう。そう判断してラウは今回の作戦を説明し始めた。