天秤の右腕

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 資料をまとめ終わったところで時間になった。
「さて……あちらはどう出るか」
 そう口にしながらギルバートはまとめた資料を手に立ち上がる。
「お待たせするわけにはいかないな」
 そしてそのまま歩き出す。
 目的地にはさほど時間をおかずにたどり着いた。
「失礼します」
 ドアの前で声をかければ、すぐに中から「入りたまえ」と声がする。
「失礼します」
 言葉とともに中に踏み込んだ。
 だが、すぐに足が止まる。
「すまないな。こちらも緊急だったのだよ」
 パトリック・ザラの姿が確認できたのだ。
「いえ……むしろちょうどよかったかもしれません」
 この言葉に二人ともかすかに眉をひそめる。
「地球軍のMS開発計画を察知しました」
 だが、次の瞬間、彼らの瞳は極限まで見開かれた。
「それは本当か!」
 パトリックがその表情のまま問いかけてくる。
「あちらの内部からの報告です。場所までは特定できなかったのでしょうが……おそらく建築時に秘密工場を組み込んだのではないかと推測されます」
 後者に関してはギナも同意をしていたから可能性は高い。そう続ける。
「それが虚偽の報告だという可能性は?」
「限りなくゼロに近いでしょう。彼はサハクが送り込んだ人物ですから」
 おそらくは今頃地球軍を退職しているのではないか。若干の希望を込めて続けた。
「そうか……」
 それでは疑うわけにはいかないな、とパトリックはため息を付く。
「ならば早速対策をとらねば」
「それについてなのですが……」
 立ち上がろうとするパトリックをギルバートは止める。
「独断でしたがこの情報はクルーゼ隊長にも流してあります」
 彼がどう出るか、それからでも遅くないのではないか。ギルバートはそう続けた。
「なぜ、クルーゼに……」
 パトリックはそうつぶやく。だが、彼としてはその有益さにすぐに気づいたようだ。
 いや、彼だけではない。
 タッドもまたその事実に気づいたようだ。
「……必要なのはクルーゼではなくその部下達、と言うことか」
「そう考えていただいてもかまいません」
 彼の部下=最高評議会議員の子息である。その中にはもちろん、目の前の二人の息子も含まれているのだ。
「……とりあえずオーソンには話しておこう。あちらの機体を解析せねばならぬからな」
「捕らぬタヌキの皮算用にならなければいいが」
「大丈夫だろう。クルーゼが付いておる」
 そこまで信頼されていれば御の字だろう。ギルバートはそんなことを考える。
「少なくとも、何かしらの成果は上げるだろう」
 破壊という形だったとしても、とパトリックはそう続けた。
「もっとも、あれらにしてもどこにあるのかがわからなければどうしようもないだろうが」
 そう言って彼はため息を付く。
「とりあえず、ここ数年に建設されたオーブの施設をピックアップしてあります」
 さらに精査は必要だろうが、とギルバートは告げる。
「では、情報部に至急調べさせよう」
 タッドがそう言った。
「それはかまいませんが、ギナ様も動いておられますよ?」
 彼の邪魔だけはしないでほしい。言外にそう続けた。
「それは大丈夫だろう」
 誰が邪魔できるというのか。タッドにそう言い返される。
「確かに」
 あの怖い方の邪魔をすればどうなるか。想像に難くない。
「ルールさえ守っていれば静かな方なのですがね」
 ため息とともにギルバートはそう告げる。
「あの子がいれば大丈夫でしょうが」
 いざとなればキラがいる。彼にギナを諫めてもらうしかない、とそう心の中でつぶやく。
「キラは元気かな?」
 それにタッドが反応を返す。
「えぇ。まだ、外出は怖いようですが……」
「そうか。心の傷が癒えるには時間が必要だからね」
 まだまだ時間はかかるか。そう言う彼にギルバートは小さくうなずいて見せた。

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最遊釈厄伝