天秤の右腕
41
ギルバートからの緊急連絡だと言われ、ラウは通信機を開いた。
「珍しいな、お前が……キラに何かあったのか?」
まず考えたのは彼のことだ。
『いや、違う』
あの子は無事だよ、とギルバートは微笑む。だが、すぐに表情を引き締めた。
『地球軍がMSを開発しているらしい』
そして爆弾を投下してくれる。
「今、なんと言った?」
自分の聞き違いか、とラウはつぶやく。
地球軍が何を開発していたと、と彼は続ける。
『残念ながら事実だよ。彼からの報告だ』
だが、すぐにギルバートはこう言ってきた。
「あいつの?」
ラウは目を丸くする。
「どうやって連絡を取ったんだ?」
オーブならば回線が通じるだろう。なんと言っても、今、ギルバートの元にはギナが滞在しているのだ。
だが、地球連合は違う。
確かに技術的には可能だろう。しかし、それが盗聴されないと限らないのだ。
「それとも、そんな危険を冒さなければならない状況だったのか?」
『とりあえず、彼からの連絡はキラ宛のメールだったよ』
それも随分と遠回りをさせて届いた、とギルバートは続ける。
「なるほど」
それならばまだ理解できるな、とラウはつぶやく。ただ、自分に直接ではなくキラだと言うことが納得できないが。
「それで? どこにあると?」
しかし、それは今追求すべきことではない。それよりも先にしなければいけないのは敵の手からそれらを奪い去ることだ。
『正確にはまだ……今、ギナ様が調べているはずだよ』
ただ、ここ数年に作られたコロニーだろう。ギルバートはそう続ける。
「……それはわかっているのか?」
『もちろんだとも。データーを送るよ』
この通信が終わり次第、とギルバートは付け加えた。
「あぁ、それで十分だ」
今は、とラウは続ける。
『通信が繋がる限りはかまわないがね』
それ以降は遅れるのが明確なメールだけだ。彼はそう告げる。
「かまわないよ。それでも作戦を考えるには十分だろう」
敵に気づかれるとは思わないから、とラウは微笑んだ。
「それに……これで連中がキラ達を狙った理由がはっきりとしたわけだ」
さらにそう続ける。
『MSのOSを作らせるつもりだったと』
バカだね、とギルバートはため息をつく。
「だが、それならば後は簡単だ。キラを連中の手に渡さなければいい」
そして、今開発中のMSをすべてこちらで奪い去ればいい……とラウは言い切る。
『大変だぞ?』
「承知の上だとも」
キラのための苦労は苦労ではないからな、と笑った。
『ならば、好きにやるがいい。根回しだけはしておいてやろう』
「それに関しては頼むよ。私では時間が足りない」
これから目的地に向かうことになるのだ。戻ってあれこれしている時間はない。
『任せておきたまえ』
力強くうなずくとギルバートはこう言いきる。
『では、また後で』
「あぁ」
ラウの返事を待ってギルバートは通話を終わらせた。
「それにしても厄介だね」
次の瞬間、ラウはため息をつく。
「MSの開発か……一年近く戦争をしている以上、その可能性は考えていたがね」
それでもこのタイミングとは思わなかった、と続ける。そして、それにかわいい弟が巻き込まれるとも思っていなかった。
だが、こちらとしても無能ではないのだ。情報を流してもらった以上、それなりに動けるだろう。
「さて……彼らにどう話すか」
それが問題だ。そう考えつつもムウは席を立った。