天秤の右腕
40
ギルバートと別れて部屋に戻ろうとしたところでギナの姿を見かけた。ちょうどいいとばかりにキラはムウからのメールについて彼に話す。
「ふむ」
すべてを聞き終わったギナは考え込むような表情を作った。
いったい彼はどのような結論を出すのか。キラは黙ってその姿を見つめる。
「姉上と相談だな」
面倒だが仕方があるまい、とギナは続けた。
「……そうなんですか?」
だとすれば、知らせない方がよかったのか。キラはそう考える。
「あぁ、気にするでない。厄介なのは地球軍の方よ」
いったいどこに秘密工場を作ったのか。そう言ってギナはため息をつく。
「本土じゃないんですか?」
キラはそう問いかけた。
「違うな。それでは我らが気づかぬはずがない」
いくらセイランが隠そうとしても、とギナは続ける。
「むしろ宇宙の方が確率が高かろう。新造のコロニーの建築中であれば我らも気づかぬ」
その頃から地球軍の計画は始まっていたとみていいだろう。
もちろん、最初はMSの開発は念頭になかったはずだ。しかし、ザフトが使い、その有益制が証明された以上は自分たちでもほしくなったのだろう。
問題があるとすれば、その開発にオーブの技術力をあてにしていたと言うことぐらいだ。
それにしてもあれこれといいわけを用意していたのではないか。
「ともかく、場所を確認せねばな」
面倒だが仕方があるまい、と彼は付け加える。そして、適切に対処させてもらおう、と付け加えた。
「……ギナ様」
そのお顔、怖いです……とキラはつぶやくように告げる。
「あぁ、すまぬな」
苦笑とともにギナはキラの頭をなでてくれた。
「だが、オーブの民を巻き込んでくれた以上、責任はとらせねばならぬ」
ミナも同じ気持ちのはずだ。ギナはそう言う。
「お前達のこともまだ片付いておらぬのに、な」
「別に、僕はもうかまわないのに……」
キラはそう告げる。
「我がかまう。それに、他のもの達のこともあるからの」
そう言う彼にきらは言葉をそれ以上紡ぐことができなかった。
「まぁ、一番よいのは、あれらをつぶすことだがの」
そのあたりは姉上と相談しておこう、とギナは付け加える。
「姉上は姉上でお忙しいようだが」
「そうなんですか?」
「あぁ。カガリが転がり込んできているそうだからな」
小さな笑いとともに彼はキラに答えた。
「つまり、厄介事をお持ち込んだと言うことと同義よ」
多少は落ち着けばよいのに、と付け加える。
「でも、カガリですから」
無理じゃないかなぁ、とキラはさりげなく視線をそらした。
「確かにの」
カガリ本人よりも周りを固めた方がよかろう。ギナもそうつぶやいている。
「ともかく、我は姉上に連絡を入れてくる。早めに対策をとりたいからの」
「わかりました。お願いします」
ギナの言葉にキラはそう言って頭を下げた。
「まったく……次から次へと厄介事ばかり出てくることよ」
ミナはそう言いながらため息をつく。
『どうするのだ?』
ギナがそう問いかけてくる。
「あれのことは事前に連絡があったからの。すでに手を回しておる」
いい加減、オーブに戻ってきてもらった方が良さそうだからな。ミナはそう付け加えた。
「しかし、もう一つの方は初耳よ」
まさかオーブの施設に地球軍の秘密基地が作られているとは。そうつぶやくと彼女は眉根を寄せる。
「すぐにでも確認せねばならぬ」
『頼んでかまわぬか? 我は動けぬ故』
こちらでも小物が動いておるから、とギナは言う。
「……まだ、キラを狙っておるか」
しつこいの、とミナはつぶやく。
『いっそ、あれらをすべて滅ぼせればの』
「それでは民が困る」
オーブだけではなく地球連合の、とミナは付け加える。そうなれば回り回ってオーブにすむ者が困るだろうとも。
「民の被害は最低限にせねばならぬ」
それが我らの義務よ。そう付け加えるミナにギナは首を振る。
『我にはよくわからぬ』
「だから、我がおるのよ。我らは双子だからな」
我らは二人で一つ。我が人々のことを気にかけるように、おぬしは我らの大切な者を気にかける。そうできているのだ。そう言ってミナは笑う。
「だから、おぬしは今しばらくそちらにいて、キラを守れ」
『わかっておる』
そう言ってうなずくギナにミナは笑みを深めた。