天秤の右腕

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「つぶしてもつぶしても出てくるなんて、あれと同じじゃないか」
 カガリが報告の最後にそう付け加える。
「仕方があるまい。それだけ必死なのだろうよ」
 何せ、オーブの中枢に乗り込めるかどうかの瀬戸際だからの……とミナは答えた。
「しかも、バカがそれを認めている……と言うより、あれはあの女子の色香に惑わされているのか」
 全くあきれたやつよ。ミナはそう言ってため息をつく。
「いっそ、暗殺した方がいいんじゃないですか?」
 真顔でカガリがそう問いかけてくる。
「やめておけ。それはそれで厄介だ」
 誰がセイランの次期当主になるか。それを決めるのも面倒だ、とミナは言う。
「まぁ、こちらもその道のプロをあてがうつもりだがな」
 お金で割り切って交際してくれる女性を、とミナは続けた。
「その間にあちらの手のものを崩すつもりだ」
「時間がかかるのでは?」
「だが、一番無難な方法だ」
 ごり押しだけでは政治は回せない。時には搦め手も必要だ。その言葉にカガリは考え込むような表情になる。
「まぁ、お前はそういうことは気にしなくてよい。そちらは私が責任を持つ故」
 お前は正道を行けばよい、とミナは続けた。
「……そう言われても……」
 すべてを押しつけるわけにはいかない。カガリはそう主張する。
「首長ともなれば汚い手段を執る必要もあることは私にだってわかる」
 それなのに、と彼女はさらに続けた。
「私が動かないわけにはいかないでしょう!」
 その言葉ももっともだ。しかし、とミナは反論をする。
「お前はまだ未成年だろう?」
 だから、今は言うことを聞け。彼女は静かに続けた。
「ウズミもそう言うはずだ」
 その言葉にカガリは唇をかむ。
「何よりも堂々としていないとあいつを殴れないぞ?」
 だめ押しとばかりにこう告げれば彼女は納得したらしい。
「わかった。時が来たらぶん殴っていいんだな?」
「もちろんだとも」
 カガリの言葉にミナはうなずいた。

「……もう一度お願いします」
 アスランはラウにそう問いかける。
「急だが、明日、出撃する」
 どうやら、連中がオーブの技術に頼らないモビルスーツを開発したらしい。そう彼は続けた。
「わかりました……」
 キラとの約束がある。しかし、それよりも仕事を優先しなければいけないだろう。
 しかし、と思いつつもアスランはうなずく。
「他のもの達には?」
「すでに連絡が付いている。時刻までには集合するはずだ」
 ラウは淡々と言葉を返してくる。
「わかりました」
 すでに自分以外のもの達の準備ができているのならばそう言うしかない。キラには通信で謝ろう、と心の中でつぶやく。
 しかし、それはラウの次の言葉で吹き飛んだ。
「キラへの謝罪は直接、本人に言うがいい」
「はい?」
 思わず声が裏返ってしまう。
「な、何を……」
「あさって、キラと約束をしていたのだろう? あの子が楽しみにしていた」
 しかし、自分たちに出撃命令が出てしまった以上、そちらを優先しなければいけない。だから、直接会って謝罪した方がいいだろう。ラウはそう続ける。
「よろしいのですか?」
 反射的に問いかけた。
「そう長い時間は無理だがね。謝罪ぐらいならかまわないよ」
 ただし、準備の時間がそれだけ削られるが。ラウはそう付け加える。
「かまいません。お願いします」
 そくざにアスランはそう言う。
「ないとは思いますが、万が一のことを考えれば、会えるときにあっておくべきだと思いますから」
 さらにこう付け加える。
「なるほど。確かにそうだね」
 では、支度をしてきたまえ。その言葉にアスランは敬礼を返すと準備のためにその場を離れた。

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最遊釈厄伝